日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
ペルツズマブ(遺伝子組換え)・トラスツズマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(フェスゴ®配合皮下注MA,同IN)の薬理学的特性及び臨床開発の経緯
榮田 まり子小谷 直生米屋 孝明鄭 悦羽原 裕二
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2024 年 159 巻 4 号 p. 241-253

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抄録

ペルツズマブとトラスツズマブはHER2(human epidermal growth factor receptor type 2)を標的とした抗HER2ヒト化モノクローナル抗体である.それぞれ異なる作用機序を有し,両抗体の併用により細胞内HER2シグナルが相加的又は相乗的に抑制されることが期待される.ペルツズマブとトラスツズマブの併用療法はその治療成績から,国内外で広く推奨され,HER2陽性乳がんの標準治療として確立されている.しかし従来の点滴静注による投与は患者の拘束時間が長く,改善が必要と考えられる.ボルヒアルロニダーゼ アルファ(以下,rHuPH20)は皮下結合組織において,ヒアルロン酸を脱重合する酵素であり,rHuPH20を用いることで薬物注入量,薬物の拡散及び吸収レベルを増加させることが報告されている.フェスゴ®配合皮下注MA,同IN(以下,本剤)は,ペルツズマブ,トラスツズマブ及びrHuPH20の固定用量配合剤である.本剤の臨床開発においては用量設定の第Ⅰ相試験(BO30185試験)に続いて,検証試験となる第Ⅲ相試験(FeDeriCa試験)が実施された.FeDeriCa試験ではHER2陽性の早期乳がん患者を,化学療法との併用でペルツズマブ及びトラスツズマブを点滴静注するIV群と本剤を皮下注射するSC群にランダムに割り付け,薬物動態(以下,PK),有効性及び安全性を比較検討した.その他,本剤に対する被験者選好度及び皮下投与の満足度を評価する第Ⅱ相試験(PHranceSCa試験)も実施された.これらの臨床試験の成績を基に,さらに母集団薬物動態解析の結果等から,本剤は2023年9月に本邦にて「HER2陽性の乳癌」及び「がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能又は効果として製造販売承認を取得した.本剤は投与時間を短縮させることで,患者の多様なニーズや日常生活に占める治療の時間・負担感の改善に貢献することが期待される.調製不要で医療従事者にも利便性を提供し,医療資源逼迫の緩和に繋がる有用な治療法としても期待される.

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