日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 短鎖ペプチドを用いた凝集性タンパク質を原因とする神経変性疾患治療薬開発
アミロイドβを分解するJAL-TA9(低分子酵素ペプチド)の発見
中村 里菜
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 159 巻 6 号 p. 386-390

詳細
抄録

アルツハイマー病(AD)の原因の一つであるアミロイドβ(Aβ)42は,アミロイド前駆体タンパク質(APP)がβセクレターゼまたはγセクレターゼによって切断されることによって産生される.Aβ42オリゴマーは強い神経毒性を示すことから,Aβ42は治療薬開発の効率的な標的となる可能性が予測されている.我々は,所有するペプチドライブラリーを用いてMMP7を活性化するペプチドをスクリーニングし,Tob1タンパク質のBoxA領域に由来する合成ペプチドJAL-TA9(YKGSGFRMI)がタンパク質分解活性を示すことを見出した.一般に,酵素は数千個以上のアミノ酸からなる高分子タンパク質であるとされ,低分子合成ペプチドが酵素活性を持つという報告は今までにない.世界で初めて発見した酵素活性を持つペプチドの総称として我々はCatalytideと名付けた.本研究では,JAL-TA9が可溶性Aβ42だけでなく,固形状態のAβ42に対しても切断活性を持つことを明らかにした.さらに,AD患者の脳切片を用いて切断活性を実証した.JAL-TA9はアルツハイマー病患者の脳に蓄積したAβ42の量を減少させた.以上のことから,JAL-TA9はこれまでにないアルツハイマー病の根本的治療薬の開発にとって魅力的なシーズペプチドである.

著者関連情報
© 2024 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top