妊娠時の生理学的変化や薬物代謝活性の変化により,種々薬物の吸収・分布・代謝・排泄が変化する.非定型抗精神病薬であるリスペリドンは,母体へのベネフィットが胎児へのリスクを上回ると判断された場合に妊婦にも使用されることがある.今回,出産前後における母体とその新生児におけるリスペリドンと活性代謝物であるパリペリドンの血清中濃度を測定するとともに両薬物の生理学的薬物動態(PBPK)モデルを構築した.妊娠時の変化がリスペリドンとパリペリドンの薬物動態パラメータに与える影響について定量的に評価した結果,妊娠時には主として,チトクロームP450(CYP)2D6活性の上昇によってリスペリドンおよびパリペリドンの血中濃度は徐々に低下し,出産後には非妊娠時のレベルまで速やかに回復するため,妊娠中と出産後の注意深い臨床症状の観察が必要であることが示された.また,小児の腎機能を予測する10種のモデルを用いて評価したところ,Flanders metadata式が新生児のパリペリドン血清中濃度を最も偏り少なく,精度良く推定可能であった.以上,PBPKモデルを用いた薬物動態に関する理解は,妊婦や新生児といったスペシャルポピュレーションにおける薬物療法の適正化に有用な手法といえる.