2026 年 161 巻 1 号 p. 4-10
エストロゲン受容体を始めとするステロイドホルモン受容体(steroid hormone receptor:SR)は,生殖・発生,成長や性分化,そして恒常性維持など基盤的な生命機能を担うと共に,ホルモン依存性腫瘍の増殖や代謝障害,高血圧など,様々な病態とも密接に関わる.これらSRはリガンド結合依存的に転写制御を行う核内受容体であり,その細胞内ならびに核内におけるリアルタイムでの動きはGFPラベリングにより可視化され,局在変化,相互作用,可動性などの「動態dynamics」が機能発現と密接に関わることが示されて来た.SRは核内受容体スーパーファミリーに属し,この中にはオーファン核内受容体であるエストロゲン関連受容体(estrogen-related receptor:ERR)が近縁なサブ・グループとして含まれる.ERRは3つのサブタイプα,β,γからなり,エストロゲン受容体との相同性が高いものの,内在性ステロイドホルモンとは結合しない.近年,炎症や幹細胞性維持など多様な生命現象との関わりが明らかとなるにつれ,ERRとその機能発現システムは注目を集めつつあるが,細胞内・核内動態とその役割については未解明であった.我々はオーファン核内受容体であるERRも生体内リガンドを有するSRと同様な挙動を示すのか,また,機能発現とその動態はどのような関係性を持つのかといった問いに着目し,ERRを可視化し生細胞内での動きを明らかにしてきた.ここでは,ERRの分子構造や発現パターンに加え,生細胞イメージングより明らかとなったERRによるエストロゲンシグナル調節機構,ERRの転写抑制と核内動態連関,新たな乳酸応答因子lactic acid-responsive form of PGC1(LRPGC1)によるERRγを介した乳酸代謝調節機構について概説する.本稿が核内受容体を介した新たな生命現象の理解や病態解明の一助となれば幸いである.