2026 年 161 巻 5 号 p. 330-334
医学部薬理学実習は医学生が薬を用いるという医療行為の一端を大学で初めて体験する実習として,卒業後も心に残る実習になってほしいと教官は願っている.しかし,昨今の大学予算の削減から,人的資源の枯渇,実習予算の不足,そして新型コロナウイルス禍による実習の簡素化やオンライン実習の推奨,学生の意識の変化などの要因により,大きな転換点となっている.今回のシンポジウムでは,全国の医学部薬理学教室の実習の実態についてアンケート調査を行った結果を紹介しながら,全国の大学が直面している実習の課題や困難について考察し,筆者の講座の薬理学実習の推移を述べながら,コロナ禍後の実習の新しい形について報告した.オンライン実習で見出された他大学との合同実習や学生にとって親和性の高いVR実習など新しい形として挙げられる実習もあるが,一方で,実際の薬の怖さや命の大切さ,薬剤投与による作用の不確実性やそれに対応する力を養う意味での動物を用いた実習を実施する大学は少なくなっている.技術的に実施できるスタッフが少なくなっていることや,実験動物費用の高騰,一部学生のみの参加となってしまう実習形態などによる理由が挙げられるが,教育面・倫理面での効果は依然として高い.オンラインやシミュレーションを用いた実習と組み合わせたり,自ら被検者となる体験型の実習など,各大学では工夫された複数の実習を行っており,そうした知恵を集めて,教員にとっては効率化・合理化された内容であっても,学生にとっては倫理性・人間性の両面に有益な実習形態を行うべく,今後も全国的な協調が必要であろう.