抄録
バナジウム塩には,ストレプトゾトシン誘発糖尿病(STZD)ラットにおける高血糖を低下させるなどのインスリン様の作用のあることが報告されている.本研究では,STZDラットの骨減少に対する硫酸バナジル(バナジウム)ならびにインスリンの長期投与の効果を比較検討した.9週齢のSprague-Dawley系雄性ラットにストレプトゾトシン(30mg/kg,i.v.)を投与した.2日後に高血糖(>300mg/dl)を示した個体のみをSTZDラットとして群分けし,その後54日間にわたりインスリン(0,0.4または4.0U/日,s.c.)の投与またはバナジウム水溶液(0,0.02,0.1または0.5mg/ml)の給水を行った.脛骨および大腿骨を,成分分析,コンタクトマイクロラジオゲラフ像およびテトラサイクリン二重標識法により検討した.STZDラットには,糖尿および持続的な高血糖のほかに,血中アルカリホスファターゼ活性の上昇およびカルシウム排泄の増大も認められた.また,その骨の成分分析からは,総骨量の低下および単位骨体積あたりの灰分含有量の著しい低下が認められた.この骨減少所見に一致して,STZDラットの骨の組織標本には著しい海綿骨密度の減少および骨吸収像が認められた.また,骨形成の抑制もテトラサイクリン二重標識法により認められた.このようにSTZDラットに認められた糖尿病性骨減少の症状の進行は,バナジウムまたはインスリンの投与により用量依存的に抑えられた.この骨減少の抑制は,0.5mg/mlのバナジウム投与群および4.0U/日のインスリン投与群においてほぼ同程度に認められた.これらの結果から,バナジウムにインスリンと同様のSTZDラットにおける骨減少の防止効果のあることが示された.