抄録
抗高血圧薬として用いられている七物降下湯を脳卒中易発症性自然発症高血圧ラット(SHRSP)に経ロ投与し,血圧上昇および脳卒中発症に対する効果を検討した.その結果,七物降下湯投与により血圧上昇を抑制しえないにもかかわらず,七物降下湯2g/kg/day投与群は脳卒中発症を抑制し有意な延命効果を認めた.近年,脳血管障害の一因としてフリーラジカルがあげられている.よって,これらの作用機序を明らかにするため,大脳皮質と脳幹のフリーラジカルを産生するキサンチンオキシダーゼ(XOD)活性およびフリーラジカルを消去するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性を測定したところ,大脳皮質のXOD活性は七物降下湯2g/kg/day投与群が対照群に対して有意に低値を示した.大脳皮質のSOI)活性は七物降下湯投与群が対照群に対して有意に低値を,脳幹のSOD活性は七物降下湯投与群が対照群に対して有意に高値を示した.また,in vitroにおける電子スピン共鳴(ESR)法による測定で七物降下湯にフリーラジカル消去作用が認められた.さらにin vitroにおけるxOD活性に対する七物降下湯の添加はXOD阻害作用を示し,SOD活性に対する添加はSOD増強作用を示した.これらのin vitroの実験結果は七物降下湯を経ロ投与されたSHRSPの脳のフリーラジカル関連酵素の活性の変動と類似していた.今回の実験の結果から,七物降下湯を経ロ投与されたSHRSPは,七物降下湯のフリーラジカル産生系に対する阻害作用とフリーラジカル消去作用の両方によって脳卒中発症が抑制されたと推察される.