日本薬理学雑誌
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ノシセプチンの薬理および生理作用
植田 弘師井上 誠
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1999 年 114 巻 6 号 p. 347-356

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抄録

最近,オピオイド受容体のホモロジースクリーニングからオピオイドペプチドに感受性を示さない新たな遺伝子がクローニングされた.このorphan受容体(ORL1)を哺乳動物細胞に発現させたものを利用して,脳から内在性ペプチドリガンド,ノシセプチンが発見された.このノシセプチンはオピオイドペプチドと非常に類似したアミノ酸配列を示すにも関わらず,オピオイドペプチドとは逆に痛覚過敏や抗オピオイド作用を示したことで大変注目された.しかしながら,その後の研究により,このペプチドは投与経路や用量によって侵害作用並びに抗侵害作用を示すことが明らかとなった.著者らも新しい末梢性疼痛試験法を用い,末梢におけるノシセプチンの痺痛機構における役割を検討した.その結果,低用量のノシセプチンは侵害受容器からのサブスタンスP遊離を介して侵害反応を示し,一方,高用量では侵害性物質によるホスホリパーゼCの活性化の阻害を介して抗侵害作用を示すことを見出した.末梢神経系において見出されたこの概念は,中枢神経系におけるノシセプチンの二相性作用のメカニズムに関しても適用できるものと考えられる.最近,ノシセプチンの生理的役割がその受容体の遺伝子欠損マウスを用い検討されており,聴覚機能における関与が見出され,次いでモルヒネ耐性形成機構における関与が見出された.本稿では疼痛機構や記憶学習などにおけるノシセプチンおよびその受容体の生理的役割について,ノシセプチン受容体の遺伝子欠損マウスを用いた結果をもとに検討する.

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