日本薬理学雑誌
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114 巻, 6 号
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  • 長谷川 雅哉, 野田 幸裕, 前田 洋子, 山田 清文, 鍋島 俊隆
    1999 年 114 巻 6 号 p. 327-336
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    痴呆疾患に対する治療薬として現在臨床試験中および申請中の薬物について,文献検索,製薬・食品・繊維・化学の各企業ヘアンケート調査した.臨床開発中の治験薬は40種であった.作用機序により分類すると,脳代謝改善薬では,コリン作動薬が12種,コリン作動薬以外の神経伝達機能改善薬が12種,細胞内(間)情報伝達物質様作用薬が1種,神経ペプチド系薬が3種,脳エネルギー代謝改善薬が2種であった.脳循環改善薬は2種,脳保護薬は7種,その他1種であった.適応疾患から分類すると,アルツハイマー型痴呆(ATD)を対象とする臨床治験薬は16種で,脳血管性痴呆(CVD)では2種,アルツハイマー型痴呆の周辺症状(ATP)は1種,脳血管性痴呆の周辺症状(CVP)は2種であった.脳血管障害慢性期(CV)を対象とする臨床治験薬は5種,急性期では12種であった.その他の適応疾患では意識障害(DC)2種,脳梗塞(CI)1種,脊髄小脳変性症(SCD)1種であった(治験が重複するものがある).現在痴呆の中核症状を改善する薬物,即ち抗痴呆薬と呼ぶ治療薬は上市されておらず,上記薬物の中から抗痴呆薬と呼ぶことができるような薬物が一日も早く臨床の場にデビューして痴呆疾患の薬物治療が円滑に行われるようになることが待たれる.
  • 富田 泰輔, 岩坪 威
    1999 年 114 巻 6 号 p. 337-346
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)脳に蓄積する老人斑アミロイドの主成分として知られるAβは膜タンパク質であるβAPPから切り出され,細胞外に分泌される.その中でもC末端が第42残基まで伸びたAβ42は凝集性が高く,アミロイドとして優先的に蓄積する.AD発症のメカニズムとして,このアミロイド沈着が重要であるとする「アミロイド仮説」が広く信じられている.早期発症型家族性AD(FAD)の原因遺伝子としてクローニングされたβAPPの変異は全Aβの産生量またはAβ42の産生量を増加させる.最近新たにFADの原因遺伝子としてクローニングされたプレセニリン(PS)1,2の変異もやはりAβ42の産生を特異的に上昇させ,トランスジェニック動物ではアミロイド班の沈着を促進することから,Aβ,特にAβ42の産生・沈着機構はFAD発症に深く関係していることが明らかとなった.またPSはAβの産生機構の中でもAβの凝集性を決定する最C末端の切り出し(γ切断)に必要不可欠な因子であることも判明した.さらに線虫,ショウジョウバエ,マウスを用いた遺伝学的な解析により,PSは発生過程においてNotchシグナリングにも重要な役割を果たしていることが分かった.PSは小胞体に存在し,安定化・プロセシングを受けることによって機能をもつ特殊な膜タンパクであるが,分子的実体は依然として不明である.様々な膜タンパクの代謝,特に膜近辺のタンパク分解に関わると考えられるPSの研究はAD治療・予防薬の開発のみならず生物学的にも重要な意味を持つと考えられる.
  • 植田 弘師, 井上 誠
    1999 年 114 巻 6 号 p. 347-356
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    最近,オピオイド受容体のホモロジースクリーニングからオピオイドペプチドに感受性を示さない新たな遺伝子がクローニングされた.このorphan受容体(ORL1)を哺乳動物細胞に発現させたものを利用して,脳から内在性ペプチドリガンド,ノシセプチンが発見された.このノシセプチンはオピオイドペプチドと非常に類似したアミノ酸配列を示すにも関わらず,オピオイドペプチドとは逆に痛覚過敏や抗オピオイド作用を示したことで大変注目された.しかしながら,その後の研究により,このペプチドは投与経路や用量によって侵害作用並びに抗侵害作用を示すことが明らかとなった.著者らも新しい末梢性疼痛試験法を用い,末梢におけるノシセプチンの痺痛機構における役割を検討した.その結果,低用量のノシセプチンは侵害受容器からのサブスタンスP遊離を介して侵害反応を示し,一方,高用量では侵害性物質によるホスホリパーゼCの活性化の阻害を介して抗侵害作用を示すことを見出した.末梢神経系において見出されたこの概念は,中枢神経系におけるノシセプチンの二相性作用のメカニズムに関しても適用できるものと考えられる.最近,ノシセプチンの生理的役割がその受容体の遺伝子欠損マウスを用い検討されており,聴覚機能における関与が見出され,次いでモルヒネ耐性形成機構における関与が見出された.本稿では疼痛機構や記憶学習などにおけるノシセプチンおよびその受容体の生理的役割について,ノシセプチン受容体の遺伝子欠損マウスを用いた結果をもとに検討する.
  • 平藤 雅彦, 佐藤 洋一, 南 勝
    1999 年 114 巻 6 号 p. 357-363
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    全身のセロトニン(5-HT)のおよそ90%は腸管に分布し,そのほとんどは腸クロム親和性(EC)細胞の顆粒内に局在している.EC細胞は小腸粘膜に散在するため5-HT遊離機序と細胞内カルシウム濃度の関連などその細胞内情報伝達系の基本的な点も不明である.本稿ではマウス小腸よりEC細胞が散在する陰窩標本の分離法と,その細胞内カルシウム動態解析法を紹介する.マウス回腸切片を摘出し筋層を剥離した後,コラゲナーゼ処理を行って粘膜組織を消化する.その後駒込ピペットで適度なピペッティングを加えて組織を分散させる.陰窩標本の分離法で重要なポイントはこのコラゲナーゼ処理とピペッティングの条件である.陰窩標本は長軸100 μm前後,短軸50 μm前後の長細い壷状をした数十個の細胞集団であるが他にも大小の上皮細胞塊,破壊細胞などが混在しているので,110 号(160 μm)と30 号(30 μm)のナイロンメッシュで分別して陰窩標本を集める.得られた陰窩標本を抗5-HT抗体を用いた蛍光抗体法で免疫染色して共焦点レーザー顕微鏡で観察すると,1個の陰窩標本に0~3個ほどのEC細胞が同定される.陰窩を構成する細胞の細胞内カルシウム動態解析には,蛍光顕微鏡画像解析装置を用いる.陰窩標本を底面が無蛍光ガラスになっている測定用チャンバーに接着物質(Cell-Tak)で接着固定し,蛍光カルシウム指示薬としてfura-2を用いて蛍光画像データを取る.用いた陰窩標本が後でわかるようにマーキングし,パラホルムアルデヒドで固定し,免疫染色してEC細胞を同定する.蛍光画像データからEC細胞での蛍光変化を再度解析することによりEC細胞での細胞内カルシウム動態が解析できる.本方法は他の消化管ホルモンを含有する様々な内分泌細胞にも応用可能と考えられる.
  • 鈴木 勉
    1999 年 114 巻 6 号 p. 365-371
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    現在,覚せい剤を中心とする薬物乱用が大きな社会問題となってきている.それゆえに薬理学領域では医療上あまり有用性のない依存性薬物を世の中に出さないようにすること,一方医療上必要な薬物はその適正使用に努めること,依存形成機構の解明,依存症の治療薬の開発などが使命となってきていると考えられる.これらを行うには依存動物モデルを確実に,かつ安定して獲得する方法論を確立することが重要である.一般的に,薬物依存の形成においては精神依存がその基礎となる.そこで,本論文においては精神依存を予測する方法として最近広く使用されるようになってきている条件づけ場所嗜好性試験(CPP法)の考え方,方法論,注意点,応用,問題点などについて総括した.CPP法では薬物の報酬効果を非常に簡便に,かつ短期闘で評価できることから,近年数多くの薬物の報酬効果が検討されている.また,本法はこれまで最も信頼性の高い精神依存の評価法として用いられている薬物自己投与法での結果と良く対応することも明らかにされており,精神依存の評価,依存形成機構の解明や依存症の治療薬の開発などに広く応用されるようになってきている.一方,CPP法は薬物の報酬効果のみならず,薬物による嫌悪効果の評価にも応用することができる.嫌悪効果は薬物の有害作用につながる可能性があり,これらの点からも本法は医薬品の精神毒性などの研究にも応用できるものと考えられる.さらに本法は,感度の高い身体依存の評価法としても応用できる.このようにCPP法は非常に有用な方法であるため,実験を行うに当っての注意点や問題点を良く理解した上で有効に用いて行くことが望まれる.
  • 三小田 伸之, 中川 治人, 川原 公規
    1999 年 114 巻 6 号 p. 373-382
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    正常食塩食(0.4% NaCl)を与えた食塩感受性ダールラットにおいて加齢(6週齢から17週齢)に伴う血圧上昇および腎障害の進展を検討した.また,これらの変化に及ぼすCa2+拮抗薬のニトレンジピンおよびニカルジピンの影響を検討した.食塩感受性ダールラットにおいて,加齢に伴う収縮期血圧上昇と共に糸球体濾過量が低下し,6週齢から17週齢までの試験期間中を通じてタンパク尿が認められた.17週齢では,腎臓に糸球体硬化および尿細管拡張が認められた.ニトレンジピン(20mg/kg/日)およびニカルジピン(20mg/kg/日)を7週齢から10週間,混餌投与すると,収縮期血圧の上昇は,ニトレンジピンでは投与3週後の10週齢から抑制されたが,ニカルジピンでは投与5週後の12週齢のみ抑制された.ニトレンジピンおよびニカルジピンは腎機能の指標である糸球体濾過量,尿量,尿中タンパク排泄量,尿中N-acetyl-β-D-ghlcosaminidase排泄量ならびに血清中のクレアチニンおよび尿素窒素濃度に影響しなかったが,腎臓の糸球体硬化を軽減させた.以上の結果から,正常食塩食を与えた食塩感受性ダールラットは高血圧発症の比較的早期から腎障害を自然発症する高血圧動物と考えられる.また,二トレンジピンは腎不全を伴う高血圧の治療において有用と考えられる.
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