日本薬理学雑誌
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動物群集心理学の薬理学への導入(XI)E1-マウス痙攣の発現における光の役割
秦 多恵子尾陰 多津子喜多 富太郎
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1975 年 71 巻 4 号 p. 339-349

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抄録

われわれは第35回日本薬理学会近畿部会においてE1-マウス痙攣の発現と同調性の発現に影響を与える因子として視覚が関与している可能性を示した.ここで述べる視覚という機能の内容は,映燦発現の他に光量による影響も考えられる.そこでこのたび光を中心として映像発現を起こす視覚とEl痙攣発現との関係について調べたわけである.(a)E1-マウスの目に種々の被覆を施し,被覆の相違とRNC(痙攣不発作率)との関係を調べたところ,可視度と同様,光量の多少もRNCに大きな影響が認められた.(b)E1-マウスの両側眼球を摘出すると,TSC(振とう痙攣閾値)およびRNCが増加し痙攣が起こりにくくなったが,約2週間後にはcontrol値に近くまで回復した.(c)両側眼球摘出後,眼房内に黒色ガラス球をはめ込んだマウスを午前10時振とう群と午後2時振とう群に分けてTSCとRNCを求めたところ,対照に比して午前10時ではわずかな増加が,午後2時では明らかな増加が認められ,光照射時間が大きな影響を与えているように思われた.(d)光照射リズムを狂わせて未処置E1-マウスを飼育し,そのマウスを2群に分け午前10時と午後2時に1群ずつ振とうしたところ,午前10時振とう群では,照射後1時間におけるTSCは照射5時間後のそれより大となったが,午後2時振とう群では照射5時間後のTSCと照射9時間後のそれはほぼ等しくなった.このことは光によって痙攣は起こり易くなるが照射時間がある程度以上長くなると光の影響はプラトーに達することを意味している.(e)常時明あるいは常時暗状態で飼育すると,明暗のある正常照明に比して,後者の常時暗状態ではRNCが増加した.しかし前者の常時明状態では1匹ずつ振とうした場合と2匹を一緒に振とうした場合とで一定した影響が認められなかった.これには光の強さの関与が考えられる.(f)1,2匹のE1痙攣におよぼす照度の影響を調べた.5lux以下から遂次照度を増し20,000~30,000luxの光にEl-マウスを暴露したものを2群に分け,その内1群を照射直後に,他の1群は1時間後に振とうしたところ,照射直後の成績では照度の増加に従ってRNCが低下し,2匹間の同調率も上昇した,しかし照射1時間後では光量の多少による影響の差は見られなかった.以上の実験事実よりE1-マウスの痙攣誘発に対する光の影響については,光そのものの強さ,照射量などよりかむしろ光を受け取る生体側の認識に由来するものと考えた方が妥当であろう.この考え方は認知論に由来するものである.

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