抄録
紫根および当帰のエーテルならびに水エキスについて薬理作用を試験した.紫根工一テルエキスの腹腔内投与のみが比較的強い毒性を示し,軽度な下熱作用と協調運動の障害を示した.しかし経口投与およびその他のエキスはいずれの投与経路でも中枢神経系に対する影響はなかった.循環系に対する水エキスは紫根で心収縮力および拍動数の僅かな増大と末梢血管の収縮を示し,当帰は反対に心収縮力の減少と末梢血管の拡張を示して血圧を下降させた.腸管運動および血液凝固にはいずれのエキスも影響しなかった.炎症反応に対して当帰エキスは何ら影響しなかったが,紫根エキスは経口投与においてこれを抑制し,特にエーテルエキスは血管透過性充進および急性浮腫に対して抑制作用を示し,水エキスは肉芽増殖を抑制する傾向にあり,抗炎症作用を有することが認められた.なお紫根エーテルエキスは刺激性を有し便通をよくするかもしれない,以上の成績から紫根の薬効を検討してみるに,中葯志に述べられている「清熱涼血,消腫解毒,滑腸通便」は紫根エキスに認められた下熱作用,抗炎症作用および瀉下作用によるものと思われる.他方当帰については今回試験した範囲内では特に明らかな薬理作用は認められなかった.