日本薬理学雑誌
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敵意と不安に関する薬理学的および動物習性学的研究 ―エチルアルコールの影響について―
吉村 裕之小川 暢也
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1983 年 81 巻 2 号 p. 135-141

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抄録

闘争が敵対動物の特性と密接な関係を有することに着目し,攻撃側あるいは被攻撃側の動物にethylalcohol(0.5,1.0,2.0g/kg,p.o.)を処置した場合,闘争場面における攻撃と逃走の行動様式が如何に変容するかを検討した.実験には,動物習性学の観点から考案され,比較的自然に近い状態で高頻度に同種内闘争を惹起できるresident-intruder paradigmを用いた.ethylalcoholを攻撃側の居住マウスに投与した場合,二相性の作用が発現し,0.5~1.0g/kgの用量ではsideways postureやattack bitingなどの攻撃行動が増加したが,2.0g/kgでは蒸留水投与の対照と差異がないか,むしろ,抑制傾向が認められた.一方,被攻撃側の侵入マウスにethylalcoholを投与すると,防御行動のupright postureが減少し,無処置居住マウスによるattack bitingは用量依存的に増加した.ethylalcoholの各用量は,居住マウスおよび侵入マウスいずれのlocomotor activityにも有意な影響を与えなかった.本実験で設定した闘争場面には,他集団からの侵入者を居住区域から排除しようとする動因と先住者の縄張りから逃走しようとする動因が存在する.換言すれば,侵入者に対する敵意と攻撃を含めた環境の新奇性に対する不安が行動に表出されている.ethylalcoholは,これら2つの動因に薬理学的効果を有し,行動変容を惹起するものと考えられる.

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