1984 年 83 巻 2 号 p. 115-122
鎮痛薬butorphanol tartrate(BT)をラットの周産期および授乳期に皮下投与すると,新生仔死亡の増加が観察されたため,この原因を明確にする目的で,交差乳母哺育による本実験を行った.BT25mglkg/日を妊娠CRJ : CD(Sprague-Dawley)ラットの周産期に皮下投与して,自然分娩により得た新生仔を対照(生理食塩液投与)母獣あるいはBT処置母獣に哺育させると,生後3日目の生存率が明らかに低下した.この原因として,BT処置母獣のうちには,分娩直後の新生仔について羊膜・胎盤・瞭帯の除去とか仔を集めて哺乳するというような,母獣が本来なすべき産後処理を行わなかったものがあったため,衰弱した新生仔は交差哺育しても死に至ると考えられた.この見解は,BT処置母獣から帝王切開により得た新生仔を,対照母獣あるいは無処置母獣に哺育させると,生存率が有意に上昇したことにより支持された.なお,分娩時の新生仔生存率および体重に及ぼす周産期に投与したBTの影響,あるいは生後3日目以降離乳時までの哺育仔に及ぼす授乳期に投与したBTの影響はほとんど観察されなかった.