日本薬理学雑誌
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Young氏液(YNG液)の心機能およびミトコンドリア呼吸能におよぼす作用 ―30°C,1時間虚血下における作用―
河田 登美枝下村 初志梶原 良夫吉田 誠一郎今井 昭一
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1985 年 86 巻 6 号 p. 369-376

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抄録

心停止液であるYoung氏液(以下YNG液 : 0.8%クエン酸カリウム+2.46%硫酸マグネシウム)の心筋保護効果について,モルモットのランゲンドルフ式灌流標本を用いて検討した.心停止液としてはYNG液および0.8%クエン酸カリウム液(以下K液),対照群としてこれら心停止液の溶媒である生理食塩水(以下saline)を用い,それぞれ30°Cにて灌流し,心停止1分後(salineのみ1分30秒灌流後),灌流を止めた.これら3群とも30°Cにて1時間虚血状態にさせ,再灌流1時間後までの心機能およびミトコンドリア呼吸能を測定した.YNG液,K液では迅速な収縮停止を起したが,salineではこれらに比べ収縮停止までの時間は有意に延長した.収縮再開および正常収縮再開はYNG液で最も速かった.K液では収縮再開は有意に延長し,1例も正常収縮に回復しなかった.再灌流後の冠灌流量,左心室内圧,dp/dtはYNG液では100%近く回復したが,salineではこれらより低い回復率であり,K液での回復率はYNG液と比べ有意に低かった.虚血中の心筋ミトコンドリア機能は,YNG液およびK液では良好であったが,salineではこれらより低い値であった.再灌流後は,YNG液のミトコンドリア機能は良好であり,salineではこれらより低く,K液では強い傷害が認められた.これらの結果は拍動数を除いた心機能の回復経過と一致していた.以上の事実より,Mg2+を含むYNG液による心停止は,心筋を保護するが,K+のみによる心停止では条件により却って心筋に傷害を与える事が結論された.

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