日本薬理学雑誌
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肝不全用経腸栄養剤 (SF-1008C) の肝性脳症 改善効果に関する研究 ―アンモニア負荷門脈下大静脈吻合ラットにおける血漿中及び脳内遊離アミノ酸濃度,脳内アミン濃度と脳波に対する作用―
木戸 康博杉山 光太中尾 誠仁樫山 英二須田 武雄宮本 剛八郎清水 剛文新谷 成之郡 英明
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1986 年 88 巻 1 号 p. 47-56

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抄録
branched-chain amino acid(BCAA)を多く,aromatic amino acid(AAA)を少なく配合した肝不全用経腸栄養剤SF-1008Cの肝性脳症改善効果を検討した.肝性脳症による昏睡状態のモデルとして門脈下大静脈吻合ラットに10% ammonium acetate(3ml/kg,i.p.)を投与し(PCS群),血中ammonia濃度,血漿中および脳内遊離amino acid濃度,脳内amine濃度,脳波を測定した.PCS群では,擬手術群(Sham群)に比べて血中ammonia濃度,血漿中遊離AAA濃度が有意に増加した.その結果,血漿中BCAA/AAA比は著しく低下した.血漿中遊離amino acid濃度異常に伴い脳内遊離AAA濃度がShamに比べPCS群で有意に増加した.さらに,脳内amine濃度において,PCS群は,Sham群にくらべtryptophan(Trp)及び5-hydroxyindole acetic acid(5-HIAA)濃度が有意に増加し,dopamine(DA)濃度が有意に減少した.しかし,serotonin(5-HT)及びorepinenphrine(NE)濃度に変化は認められなかった.脳波ではSham群に比べPCS群で脳波電位の低下が認められた.SF-1008Cは,増加した血漿中遊離AAA,脳内遊離AAA,脳内Trp,脳内5-HIAA濃度を減少させ,脳波電位の低下を抑制した.一方,良質蛋白質である卵蛋白質のamino acid組成を基とした成分栄養剤ED-ACは,血漿中遊離AAA,脳内遊離AAA,脳内Trp,脳内5-HIAA濃度の減少を認めず,脳波電位の低下も抑制しなかった.これらの結果はSF-1008Cが血漿中遊離amino acid濃度を是正することにより脳内遊離amino acid濃度,ひいては脳内amine代謝,脳波に影響を及ぼしていることを示唆する.さらに,血漿中BcAA/AAA比と脳内BcAA/AAA比との間には,正の相関関係(r=0.9585)が認められ,血漿中遊離amino acid濃度が脳内遊離amino acid濃度を反映していることが示唆された.
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