日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
アラキドン酸誘発脳梗塞巣の定量的計測および計測値と卒中様症状との関係
坂東 和良畑中 佳一大林 繁夫入野 理
著者情報
ジャーナル フリー

1988 年 92 巻 3 号 p. 193-200

詳細
抄録

実験的脳梗塞モデルとして有用とされているラットアラキドン酸(AA)誘発脳梗塞モデルについて器質的な梗塞巣の定量的計測法を考案した.またその計測値と卒中様症状との関係について統計的検討を行なった.AA 1.3mg/kgを右内頸動脈に注入することにより29%の動物は死亡した.死亡動物脳の組織学的検討では,右大脳半球全域にわたる広範な虚血性壊死と出血が顕著であった.生存例では86%の動物に梗塞が発現し,その梗塞巣は無構造化した壊死巣で,乳頭体中央部を通る大脳冠状断標本の視床下部に最も大きく発現した.そこで,同部の梗塞巣を方眼紙上の脳冠状断シートに転写し,脳面積に占める梗塞巣の面積を計測し梗塞率とした.この梗塞率を独立パラメータとし,本モデルにおいて顕著にみられた5つの卒中様症状(斜頸,正向反射消失,転倒,特異姿勢,協調運動機能低下)を従属パラメータとし,数量化理論I類にてその関係を詳細に解析した.症状陽性の動物で梗塞のみられなかった動物(false positive)は存在しなかったが,症状が陰性であるにもかかわらず梗塞を有した動物(false negative)は極めて多かった.各症状パラメータのグレードを数量化し正規化したところ,転倒および特異姿勢では数値のレンジが大きく,梗塞率と深い関係がみられた.また,梗塞率と各症状パラメータ間の偏相関係数は転倒と特異姿勢が高く,その他のパラメータでは弱かった.従って薬効検定を簡易な卒中様症状で行なう時は,転倒と特異姿勢は梗塞の指標となり得ることが示された.

著者関連情報
© 社団法人 日本薬理学会
前の記事
feedback
Top