日本薬理学雑誌
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AF64Aによるラット遅延弁別反応障害に対するコリン作動薬の効果
宮田 久嗣広中 直行安東 潔
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1991 年 97 巻 5 号 p. 259-266

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抄録

SD系雄性ラットを用い,遅延弁別反応に対するコリン作動性神経毒とされるethylcholine mustard aziridinium ion(AF64A)の脳室内投与による影響を観察した.さらに,これらのラットにnicotine,arecolineおよびphysostigmineを皮下投与して同反応に対する効果を検討した.餌強化によるオペラント実験箱事態で,正面のパネルの左右のレバー上のランプのうち一方を点灯した後消灯し,一定の遅延時間(0.1,4,16秒)経過後に中央上方のランプを点灯した.このときラットが先のランプ点灯側のレパーを押した場合にこれを正選択反応とした.そして,正選択率(総反応試行数に対する正選択試行数のパーセンテージ)と反応潜時(中央上方のランプ点灯からレバー押し反応開始までに要する時間)を観察した.この結果,正選択率は遅延時間に依存して減少した.一方,反応潜時は遅延時間の延長により増加する傾向を示したが,この変化は遅延時間依存的ではなかった.AF64Aは6nmolの脳室内投与により遅延4秒で正選択率を減少させ,この効果は遅延時間に依存的であった.また,AF64Aは遅延16秒で反応潜時を減少させたが,遅延時間との関係は認められなかった.このAF64Aを投与されたラットの遅延4秒の遅延弁別反応に対する3種類のコリン作動薬の効果を累積用量手続きによって検討した.nicotineは0.12mg/kgの皮下投与により正選択率を改善させ,0.12~0.48mg/kgで反応潜時を減少させた.一方,arecolineは4mg/kg,physostigmineは0.06~0.24mg/kgの皮下投与により反応潜時を増加させたが,いずれの薬物も正選択率には明らかな影響を与えなかった.以上のことから,今回の遅延弁別反応の実験事態で,遅延時間と正選択率の関係からラットの記憶を検索できると考えられた.そして,AF64Aの脳室内投与により遅延弁別反応が障害され,この障害をnicotineが改善させることが示された.

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