日本顎関節学会雑誌
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顎関節症を有する不正咬合者に対する歯科矯正学的対応
頸肩腕部に多くの愁訴を有したアングルIII級, オトガイ側方偏位症例の1治験例
藤田 幸弘栗原 恵子相馬 邦道
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1996 年 8 巻 1 号 p. 166-181

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抄録
頭部のみならず頸肩腕部の多数の部位に愁訴を有する顎関節症を伴うオトガイ倶り方偏位症例の1例を経験したので, 検査所見を併せて, その概要を報告した。
患者は, 初診時26歳の男性で, 咬み合わせが悪い, 頭頸肩腕部の複数の領域に違和感が感じられる等の訴えを有して当科を受診した。
下顎歯列の正中は左側へ約5mm偏位し, 第一大臼歯の咬合関係はアングルIII級で, 左側臼歯部で交叉咬合を呈していた。両側の顎関節雑音と大開口時における右顎関節部の疼痛が認められ, 顎関節部, 側頭筋前部, 胸鎖乳突筋中央部, 肩に圧痛が認められた。
右側顎関節のX線検査により, 下顎頭頸部に過形成が, 左側顎関節の下関節腔造影X線検査により, 復位性円板前方転位が認められた。本症例を顎関節症 (I+III型) を伴うアングルIII級, オトガイ側方偏位症例と診断した。治療経過として, スプリントを使用させたところ, 症状の緩解が認められた。そこで, スプリントにより修正した下顎位を目標の下顎位とし, 下顎両側第一小臼歯を抜歯し, 咬合の再構成を行った。症状緩解後, 5年を経過しているが, 良好な経過が得られている。さらに, 本症例の治療経過を通じて, 矯正治療は長期に渡り少しずつ歯を移動させ咬合を再構成するため, 顎口腔系の神経筋機構の適応を求めながら行う咬合の改善方法として有効な手段であると考えられた。
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© 一般社団法人日本顎関節学会
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