日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
総説
放射線性腸炎
千野 晶子菅沼 孝紀浦上 尚之岸原 輝仁小川 大志五十嵐 正広
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 52 巻 5 号 p. 1381-1392

詳細
抄録

前立腺癌や子宮癌において放射線治療が第一義的な治療となる例は多い.放射線照射により影響を受ける骨盤内組織や腸管に対する障害は,腸管運動の障害をはじめ,直腸およびS状結腸の出血性変化や潰瘍,狭窄,瘻孔形成,さらに小腸潰瘍などに及ぶ.放射線による障害は発症時期により早期障害と晩期障害に分けられ,両者の病態は病理学的にも違うため予後や対処方法は異なる.晩期障害の代表的症状は,血便が約8割を占め排便障害や肛門痛などがある.放射線性腸炎には経過別,重症度別,病理学的な分類があり,効率的な治療戦略をたてるため各分類の特徴を把握することが重要である.治療指針において未だ確立されたものはないが,頻度の高い出血例に対しては,内視鏡的止血術の施行例が増えており,なかでもアルゴンプラズマ凝固法は簡便かつ安全で有用である.しかし,潰瘍を伴うものは粘膜の脆弱性もあり内視鏡的治療に固執せず,出血と潰瘍両方の病態に効果がある薬物注腸療法を考慮すべきである.また,腸管穿孔や狭窄例においては高圧酸素療法も注目すべき治療と考えられる.狭窄や瘻孔例は,症状増悪を回避するために外科手術が適応される場合もあるが,術後の合併症の問題も多く慎重な検討が必要である.

著者関連情報
© 2010 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
次の記事
feedback
Top