2018 年 60 巻 8 号 p. 1491-1501
食道アカラシアは,下部食道括約部(lower esophageal sphincter:LES)の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害である 1),2).経口内視鏡的筋層切開術(Per-Oral Endoscopic Myotomy:POEM)はInoueらによって考案された食道アカラシアに対する画期的な治療法で,その登場により,食道アカラシアの治療体系は大きく変わった 3).しかしながら,POEMは従来の内視鏡治療と比べて,外科手術の要素を多く含んでいるため,臨床上問題なく行うためのポイントも存在する.本稿では,POEMを安全かつ効果的に行うためのコツと注意点について述べたい.食道アカラシアの診断には上部消化管内視鏡検査,食道 X 線造影検査,食道内圧検査,胸腹部CT検査を行う.これらの検査で食道アカラシアと確定診断され,POEMを施行する場合は,外科手術に準じた全身麻酔のリスク評価を行う.POEMを行うにあたっては,気管内挿管のもと,全身麻酔下で行うが,内視鏡からの送気は必ずCO2を使用する.空気送気でPOEMを行うことは禁忌である.
筋層切開の始点は,自覚症状(つかえ感の位置),食道造影検査での狭窄部位,食道内圧検査での亜分類(シカゴ分類)をもとに決定し,筋層切開の終点は胃側2cm前後のところに置く.胃側まで筋層切開が進んだことを確認する方法としては,Double scope法が推奨される.