抄録
著明な栄養障害を惹起した糞線虫症の1症例の報告である.48歳男性,奄美大島に出生し,7歳で大阪に移住,22歳から精神分裂病に罹患,入院1年前から食後の悪心,嘔吐あり,体重減少も顕著になったため,入院した.入院時,血清総蛋白量およびコレステロールが低値を示し,ブドウ糖負荷試験で糖尿病型を示した.また,糞便中脂肪量の軽度増加,131I-RISA検査で131Iの半減期の著明な短縮がみられた.消化管X線検査で,胃および十二指腸球部の中等度拡張,十二指腸下行端の壁不正,それより遠位の十二指腸および近位空腸の鉛管状狭窄あり,正常粘膜像は消失していた.内視鏡検査で,Kerckring皺襞は消失し,粘膜の萎縮がみられた.糞線虫が生検材料の十二指腸粘膜固有層および糞便に多数みられた.Pyrvinium pamoateおよびthiabendazoleによる治療で,臨床症状の著明な改善がみられた.本症例の治療によるX線,内視鏡所見の改善を供覧すると共に,栄養障害を起こした原因について考察を加えた.