抄録
十二指腸脱出性胃病変のうち上皮性腫瘍については多くの報告があるが,粘膜下腫瘍の脱出・嵌頓は従来からきわめて稀なものと考えられている,著者らの集計では本邦で24例あり,その半数は胃体部以上に基部を有するもので,50歳以上の高齢者に多かった.本稿ではその1例の内視鏡像,臨床像について報告し,胃の高位にある無茎性腫瘍の十二指腸脱出機序と診断を中心に,過去報告のあった有茎性腫瘍例と対比しながら統計的考察を加えた. 症例は74歳女性で心窩部痛および反覆する嘔吐を主訴として来院.精査の結果胃体上部小彎後壁寄りに基部を有する巨大な粘膜下腫瘍が,十二指腸球部まで嵌入していることが判明した.手術の結果,腫瘍の大きさは8×5.5×5.5cm,重量130g,無茎性で表面は平滑,割面はスポンジ様で一部に出血をともなっていた.病理組織学的には,脱出性胃腫瘍としては本邦3例目にあたる神経鞘腫であった.