1983 年 25 巻 3 号 p. 435-441
胃内視鏡診断の1つの診断根拠として,粘膜の色調変化をあげることができる.従来は視感比色による主観的な色調評価であったが,ヒトの眼では色覚の疲労のあること,色覚の記憶があまり正確でないこと,色調評価に個人差のあることなどから,客観的な色調評価の方法の開発が望まれていた.一方,物体色の測定については,C.I.E.とJISの規定があって現在の胃内視鏡では胃粘膜の絶対値を得ることは不可能である.われわれの知りたいのは,胃粘膜のある2つの領域の色差であるので相対値で充分である.そこで胃疾患のない成人60名について光電子増倍管を使用した光電色彩計を利用し,前庭部小彎を基準として胃粘膜の各部位を測定した.胃体部の前壁・大彎と基準部位との色差は△E10以上であり,また胃内視鏡を通してのヒトの色調識別は色差5以上でないと不可能であることが分った.色彩計による色差判定は,胃粘膜病変診断にあたり有益な情報をもたらすし,またわれわれの色彩計の色識別能は,ヒトの眼を凌駕していることがわかった.