抄録
十二指腸リンパ管系攤の本邦報告例は,1981年12月までの集計で8例にすぎない.ここに報告した自試験例では,実体顕微鏡および光顕所見を基に本例の特異な内視鏡像について解析を行なった.症例は23歳男性.合併した胆石症によると思われる心窩部痛・黄疸を主訴に来院し,内視鏡査および低緊張'性十二指腸造影にて,十二指腸下行部に山田分類III 型・拇指頭大の隆起性病変を認めた.通常内視鏡観察では半球状の粘膜下腫瘤様所見を呈し,その表面には顆粒状~斑状の白色部("散布性白点"の集合状態を示す)を認めた.メチレンブルーによる染色性は比較的乏しい状態にあった.同部の拡大観察では絨毛巾の大小不同,絨毛丈の低下を認めた.以上の内視鏡所見より・同腫瘤の粘膜上皮におけるlymphangiectasiaの存在が診断され,鉗子生検により確認できたが,腫瘤の主体と考えられる粘膜下層の変化に関しては直接診断を下すことはできなかった.合併する胆石症に対する手術時に切除された腫瘤は12×10×9mmの半球状攤で,組織学的には粘膜固有層および粘膜下層のlymphangiectasiaであった.SudanIII 染色にて拡張リンパ管内における乳糜の存在が確認され,これが同腫瘤粘膜面における韻色調の原因と考えられた.メチレンブルー染色法の所見は同部粘膜上皮細胞における吸収機能の低下を示唆し,アルカリフォスファターゼ染色併用実体顕微鏡および光顕所見は,酵素的あるいは形態的にも同部粘膜上皮細胞が異常であることを示した.