抄録
症例は57歳,女性.主訴は口内苦汁感.X線および内視鏡検査で胃体部前壁にIIa+IIc様の病変がみられ,この部からの生検でカルチノイド像が認められた.術前の血中ガストリン値は730pg/mlと高値を示した.胃切除標本では胃体部前壁に0.9×0.7cm大のIIa+IIc病変がみられ,病理組織所見では深達度m,索状,腺房様構造を示すカルチノイド像が認められた.Grimelius染色では腫瘍細胞内に明らかに多数の顆粒がみられた,Font ana-Masson法では陰性であった.電顕像では細胞質内に最大220mμ の電子密度の高い顆粒が認められた.さらに抗ガストリン抗体を用いたPAP法では腫瘍細胞に陽性所見は認められなかった. 術後経過は良好で,術後1カ月,および1年2カ月後の血中ガストリン値はそれぞれ39,41pg/mlと正常範囲であった.以上の症例を中心に,とくに胃カルチノイドの内分泌腫瘍としての可能性について考察を加えた.