抄録
食道疾患はある程度の大きさと凹凸変化を有するものでない限り,ルーチンのX線検査にて異常を指摘することはしばしば困難で,しかも該病巣そのものによる症状を欠落するものが多いように感じられた.そこで,昭和55年1月より60年3月までの6年3カ月間に,当院にて施行したのべPanendoscopy5,598件中,上部消化管手術後のものと緊急もしくは早期内視鏡を除いたもので,食道粘膜よりの生検を要した各種食道疾患73例を対象に,特に食道症状の有無を中心に検討した.進行食道癌は8例すべてに病巣由来の症状を認めたが,早期もしくは表在癌6例では,1例(16.7%)に胸骨後痛がみられたに過ぎなかった.逆流性食道炎21例中,有症状のものは6例(28.6%)で,5例が胸やけ,1例が食道つかえ感であった.食道潰瘍3例はすべてに症状がみられ,2例が嚥下痛,1例が胸やけであった.びらん5例中では1例(20.0%)に胸やけを認めた.これは,表在びらん型早期食道癌に無症状のものが多いことを示唆している.隆起病変としてはポリープ12例,非上皮性腫瘍4例を数えたが,ポリープの1例(8.3%)にかろうじて軽度のつかえ感がみられたのみで,その他には食道症状を認めず,この事実は,表在隆起型早期癌も無症状のものが多いと考慮された.その他の疾患では,モニリア症2例中1例のみに軽度嚥下痛をみた以外,glycogenicac anthosis7例,食道粘膜橋1例,黄色腫1例,粘膜粗慥のため生検を要した3例には食道症状を認めなかった.以上の如く,進行食道癌や食道潰瘍は100%有症状であったが,他の普遍的な食道疾患に病巣由来の症状をみることは低率であった.即ち,上部消化管検索に対するPanendos-copyのルーチン化に伴う食道内視鏡検査の有用性が,今回の検討の結果,改めて評価し得た.