抄録
近年,腸管ではほとんど吸収も分泌も受けない特殊組成電解質液が開発され,これを用いた全腸管洗浄による大腸内視鏡の前処置法が行われるようになった.この方法は簡便性,効果,被検者の忍容性の点で従来の前処置法より優れていると考えられる.この特殊組成電解質液には腸管での水の吸収を阻害する目的でポリエチレングリコール(PEG)4000が含まれている.実験動物において大量のPEGは毒性を呈することが知られているため,この前処置法に伴うPEGの吸収を検討することは安全性の確認の上で重要である.われわれは,大腸内視鏡前処置として240g以下のPEG4000を経口摂取した7症例において血清濃度を,13症例において尿中排泄率を測定した.採血は前処置直前,直後,1,3,12時間後に行い,尿検体は前処置開始より48時間後まで採取した.PEG4000血清濃度は6例のすべての検体で定量限界(10μg/ml)未満で,残る1例では高脂血症のため測定不能であった.尿中排泄率は13例の平均で0.09%であった.これらの結果から,PEG4000の消化管からの吸収は極く微量で,大腸内視鏡前処置に用いられる通常投与量では毒性を呈し難いことが判明した.