抄録
症例は77歳の男性である.神経痛治療のため消炎鎮痛剤を内服して10日後に吐血したため当院を受診した.内視鏡検査にて胃体部に多発性の潰瘍がみられたが,前庭部前壁に皺襞様の隆起した発赤部を認めた.急性多発性胃潰瘍と診断して抗潰瘍剤にて治療した.2週後に潰瘍はいずれも縮小し退院した.退院後3週目には胃体部の潰瘍はいずれも消失していたが,前庭部前壁の隆起は陥凹を伴って増大しておりIIa+IIc型早期胃癌を疑い再入院した.さらに3週後の検査では病変は凹凸が著明となりBorrmann2型の進行癌との鑑別が問題になる程であった.胃切除術が施行され,病変は深達度smのIIa+IIc型早期胃癌(中分化型腺癌)と診断された.病変部粘膜内には多発性の小嚢胞がみられた. 多発性壁内嚢胞を伴い急速な形態的変化を示したIIa+IIc型早期胃癌を内視鏡的にとらえられた本例は,胃癌の発育を考える上で多くの示唆を与えると思われる.