2019 年 16 巻 2 号 p. 126-132
直腸癌に対する術前化学放射線療法(以下,CRT)は局所制御を目的に行われているが,標的組織以外への放射線障害が問題となる。放射線障害は早期に発症する急性障害と晩期に発症する慢性障害に分類され,治療後も長期的に腸管を中心とした臓器障害をきたすことがある。放射線照射は創傷治癒に負の影響を与え,低位前方切除術など肛門温存手術において縫合不全を上昇させる可能性が示唆されているが,予防的人工肛門造設,術前 CRTから手術までの十分なインターバル確保など縫合不全に対して一般的に対策が講じられており,メタアナリシスによると術前 CRTは縫合不全のリスク因子として抽出されていない。一方で一旦縫合不全が起こるとその創傷治癒のメカニズムは抑制されており,難治性となる。今後は,さらに放射線障害を軽減できる新たな併用化学療法や放射線照射モダリティの開発とともに究極の直腸機能温存である clinical CRをめざした腫瘍制御法の確立を期待したい。