日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
16 巻, 2 号
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Editorial
  • 米国外科感染症学会の腹腔内感染症マネジメントガイドライン改訂版と対比して
    竹末 芳生
    2019 年16 巻2 号 p. 80-86
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    腹腔内感染症の原因菌は,腸内細菌科細菌とバクテロイデス属であり,これらに活性を示す抗菌薬選択が原則となる。院内/ 医療関連感染では緑膿菌,エンテロバクター属,さらに重症感染では腸球菌,extended spectrum β-lactamase 産生菌のカバーも考慮する。重症腹腔内感染ではMEPM,DRPM やTAZ/PIPC が推奨され,中等症ではCFPM+MNZ やIPM/CS が,軽症(市中感染)ではCTX/CTRX+MNZ やCPFX+MNZ が推奨される。ランダム化比較試験で適切な感染源コントロールが行われた場合,4 日間投与と長期投与で術後成績に差がないことが証明された。しかし重症例では経過不良なことも多くまた短期投与を支持するデータも限られるため,臨床反応を参考に患者個々で投与期間を決め,経過良好例では7 日以内に抗菌薬を中止することがすすめられる。

原著
  • 堀尾 勇規, 池内 浩基, 荒木 敬士, 坂東 俊宏, 佐々木 寛文, 後藤 佳子, 桑原 隆一, 皆川 知洋, 内野 基, 竹末 芳生
    2019 年16 巻2 号 p. 87-92
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    【目的】炎症性腸疾患(以下,IBD)は,内科的治療による免疫抑制状態と,炎症腸管粘膜の fungal translocationが原因で,真菌感染症のリスクが増大するとされている。今回,IBD手術症例において真菌性眼病変を併発した症例の特徴について明らかにすることを目的とした。【方法】2010年1月から 2016年11月までに手術を施行した潰瘍性大腸炎(以下,UC)421例とクローン病(以下,CD)401例を対象とした。【結果】真菌性眼病変は,UCで5例(1.2%)CDで3例(0.7%)に認めた。全例に中心静脈カテーテルが留置されていた。血液培養検査は,7例(87%)で陽性で,Candida albicansが全例に検出され,β.Dグルカンの上昇は6例(75%)に認められた。眼症状は半数に認められ,硝子体病変を3例に,黄斑病変を5例に認めた。全例が眼科受診し,抗真菌剤の投与で改善を認め,硝子体注射 /手術を行った症例はなかった。【結論】IBD手術症例において,真菌性眼病変は進行性病変が多く,真菌血症を認めた場合は,すみやかに眼科受診をすべきである。

特集:術前化学療法,放射線療法と術後感染
巻頭言
原著
  • 髙畑 りさ, 小野 聡, 平木 修一, 矢口 義久, 青笹 季文, 小林 美奈子, 長谷 和生, 辻本 広紀
    2019 年16 巻2 号 p. 94-100
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    【目的】食道癌に対する neoadjuvant治療が術後合併症に与える影響について検討した。【対象・方法】2006年~2011年胸部食道切除・胃管再建術を施行した99症例を術前治療なし群(SA群),術前放射線化学療法(NACRT群),術前化学療法群(NAC群)の 3群間で,とくに重症呼吸器合併症に着目し検討を行った。【結果】術後合併症率はNACRT,NAC群が SA群と比較し有意に高率であり,とくに人工呼吸器管理を要した重症呼吸器合併症の割合がNACRT群,NAC群で SA群に比較し有意に高率であった。また PaO 2/FiO2(P/F)は NACRT群が他の 2群と比較し低値で推移した。術前サイトカイン値や HMGB-1値は NACRT群で,高値であった。【結語】食道癌に対する neo-adjuvant治療,とくに放射線化学療法は各種 mediatorを誘導し,重症呼吸器合併症を惹起する可能性があり,その予防対策を講じる必要がある。

  • 大平 学, 水町 遼矢, 宮内 英聡, 丸山 通広, 今西 駿介, 栃木 透, 丸山 哲郎, 花岡 俊晴, 岡田 晃一郎, 松原 久裕
    2019 年16 巻2 号 p. 101-111
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    【目的】当科における直腸切断術(APR)後骨盤死腔炎発生の危険因子抽出を目的とした。【対象・方法】2005年1月から 2017年12月まで下部直腸癌に対してAPRを施行した61例で術後骨盤内感染発生の危険因子を検討した。【結果】骨盤死腔炎は26例(43%)で発生し,Clavien-Dindo分類 grade Ⅲa(以下,CD Ⅲa)以上の骨盤死腔炎は開腹手術で多い傾向があった。側方郭清非施行例では BMI高値群・開腹手術群・出血多量群で有意に骨盤死腔炎が多く,側方郭清施行では術前 CRT群で有意に多かった。CRT施行症例での検討では多変量解析で開腹手術のみが独立した骨盤死腔炎の危険因子として抽出された。60日を越えるドレーン長期留置を要したのは,いずれもCRT症例であった。【結語】術前 CRT後の腹会陰式直腸切断術で側方郭清を行う場合,開腹手術で行う場合は骨盤死腔炎の発生リスクが高いことが示唆された。

  • 中村 透, 田中 公貴, 浅野 賢道, 岡村 圭祐, 土川 貴裕, 野路 武寛, 中西 喜嗣, 海老原 裕磨, 倉島 庸, 村上 壮一, 七 ...
    2019 年16 巻2 号 p. 112-117
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    近年,膵癌術前治療が増加している。教室の膵頭部癌に対する周術期対策の変遷ならびに手術先行治療と術前治療の周術期合併症を後方視的に検討した。2008年~ 2018年の膵頭部癌連続 184例では,手術先行治療が 94例,術前治療が 90例で,最近 5年間では72.3%に術前治療が施行された。術前治療群は,年齢が低く,喫煙率が高く,術前 Hbが低く,血小板リンパ球比が高値で,手術時間が長く,輸血施行例と門脈合併切除例が多かった。術後合併症頻度はSSIを含め差はなく,Clavien-Dindo Ⅳaが有意に術前治療群で多かった(0.0% vs 5.5%,P=0.02)。全 184例を SSIあり群と SSIなし群に分け,リスク因子を検討すると,年齢 .68歳,手術時間 .548分,BMI .21.5,ALB<3.5g/dLが独立したリスク因子であった。術前治療は,膵頭十二指腸切除の SSIリスク因子とはならなかった。

総説
  • 深川 剛生, 堀川 昌宏, 清川 貴志, 添田 成美, 熊田 宜真, 福島 亮治
    2019 年16 巻2 号 p. 118-125
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    胃癌の術前化学療法を評価する前向き無作為比較臨床試験における術後合併症についての国内外の報告から,「術前化学療法により術後合併症の発生頻度は増加しない」ということが示された。後ろ向きの比較でも同様の結果であった。しかし,脆弱な患者背景・強度の高い化学療法のレジメン・行われた化学療法で生じた重篤な toxicity,行う予定手術の大きい侵襲など,術後合併症の発生を増加させる可能性がある因子が含まれている場合は,安全性への十分な配慮をもって手術を行うことが望ましい。

  • 問山 裕二, 藤川 裕之, 楠 正人
    2019 年16 巻2 号 p. 126-132
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    直腸癌に対する術前化学放射線療法(以下,CRT)は局所制御を目的に行われているが,標的組織以外への放射線障害が問題となる。放射線障害は早期に発症する急性障害と晩期に発症する慢性障害に分類され,治療後も長期的に腸管を中心とした臓器障害をきたすことがある。放射線照射は創傷治癒に負の影響を与え,低位前方切除術など肛門温存手術において縫合不全を上昇させる可能性が示唆されているが,予防的人工肛門造設,術前 CRTから手術までの十分なインターバル確保など縫合不全に対して一般的に対策が講じられており,メタアナリシスによると術前 CRTは縫合不全のリスク因子として抽出されていない。一方で一旦縫合不全が起こるとその創傷治癒のメカニズムは抑制されており,難治性となる。今後は,さらに放射線障害を軽減できる新たな併用化学療法や放射線照射モダリティの開発とともに究極の直腸機能温存である clinical CRをめざした腫瘍制御法の確立を期待したい。

トピックス
  • 坊岡 英祐, 江川 智久, 川久保 博文, 竹内 裕也, 北川 雄光
    2019 年16 巻2 号 p. 133-135
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    食道癌に対する食道切除術は他の消化器外科手術と比較し侵襲度が高く,合併症の多い手術である。また食道癌の悪性度の高さから手術療法の限界が議論され,JCOG9907試験の結果から我が国において臨床病期Ⅱ期およびⅢ期胸部食道癌に対する標準治療は術前化学療法(CDDP+5-FU)+手術となった。食道癌術後感染性合併症は長期予後を悪化させる報告が散見され,メタ解析でも食道癌術後合併症が長期予後を悪化させることが報告されている。JCOG9907試験では術前化学療法群と術後化学療法群では術後合併症の発生率に有意差は認めないが,術前化学療法群のみで術後感染性合併症が長期予後を悪化させることが報告されている。食道癌術前化学療法は術後合併症を有意に増加させることはないが,一度合併症が起こると重大な合併症となり長期予後を有意に悪化させることが示唆された。

症例報告
  • 上月 亮太郎, 峯 真司, 山下 公太郎, 大串 大輔, 佐々木 俊治, 岡村 明彦, 湯田 匡美, 速水 克, 今村 裕, 古川 恵一, ...
    2019 年16 巻2 号 p. 136-139
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    水痘帯状疱疹は varicella zoster virusによる感染症であり,日常診療で比較的よく遭遇する。今回,進行食道癌に対する術前化学療法中に Ramsay Hunt症候群を発症し,播種性帯状疱疹・髄膜脳炎へと重症化した 1例を経験したので報告する。症例は 70歳代の女性。胸部食道癌cT3N1M0,Stage Ⅲの診断で術前化学療法を受けた。術前化学療法2コース目の 9日目に顔面神経麻痺,10日目に耳介の発赤と播種性皮疹を認め,髄液検査結果と頭痛の症状から, Ramsay Hunt症候群・播種性帯状疱疹・髄膜脳炎と診断し治療を開始。その後脳出血を発症したが,抗ウイルス療法で症状の改善を認めたため,2期に分割し右開胸食道切除術と胃管による食道再建術を施行した。術後造影 CT検査で広範なリンパ節転移・多発肝転移を認め,再建術術後 36日目に死亡した。化学療法中の Ramsay Hunt症候群は急速な増悪を示す場合があり,また化学療法による有害事象との鑑別が難しいため,診断が遅れる危険性があり注意が必要である。

  • 松井 恒志, 廣瀬 淳史, 渡邉 利史, 柄田 智也, 馬渡 俊樹, 林 泰寛, 天谷 公司, 加治 正英, 前田 基一, 清水 康一
    2019 年16 巻2 号 p. 140-144
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    80代女性。肺癌に対しペメトレキセド,ベバシズマブ,カルボプラチン併用療法を施行。その4日後より下腹部痛,下痢,下血を認め,絶食,補液,カルバペネム系抗生剤の投与による治療を継続されていたが,著明な下痢が持続し,腎機能低下,意識障害など全身状態が悪化。当科紹介となり下部内視鏡検査にて下行結腸を中心に浮腫と深掘れ潰瘍があり,生検で核内封入体が認められ,CMV(Cytomegalovirus)腸炎と診断。ガンシクロビルを開始したところ,発熱,下痢は改善傾向を示し,腎機能は改善,C-HRPも陰性化し,全身状態の改善傾向が得られた。しかしながら,その後,肺癌の増悪を認め,肺炎を併発したため急速に呼吸状態が悪化し,治療開始後より 19日目に呼吸不全のため永眠された。

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