本稿の目的は琉球語宮古伊良部島方言(以下,伊良部島方言)の韻律におけるフット構造の重要性を指摘し,フットを用いた分析によってこの言語のリズム構造を明らかにすることである。本稿の前半部では,この言語の2つの重要な韻律特徴,すなわち①語(+付属語)の内部において2(ないし3)モーラの韻律的なまとまりが見られること,②高ピッチと低ピッチの繰り返しが見られることに注目し,これらを的確に記述するためにフット構造を導入する。そして,語(+付属語)内部のフットに対してHighとLowのトーンを交互に付与していくという規則を提案し,①と②を同時に説明する。本稿の後半部では,上記の韻律現象が(アクセントではなく)リズムの表出であることを示す。特に,Selkirk(1984)によって提唱されKubozono(1993)ら後続の研究によってその普遍性が主張されている「リズム交替の原理」(Principle of Rhythmic Alternation)に注目し,伊良部島方言の韻律がこの原理に明確に支配されていることを示す。