言語研究
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Print ISSN : 0024-3914
論文
出雲仁多方言における母音をめぐる音変化
平子 達也
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2024 年 165 巻 p. 1-32

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抄録

島根県出雲地域で話される出雲仁多方言における母音をめぐる音変化を,古代語との比較にもとづいて,相対年代とともに推定した。仁多方言では,中舌母音化*u, *i > ɨと母音の低下*u > o, *i > eに加え,rの隠在化と呼ばれる変化が起こった。現代仁多方言の形式のほとんどが,古代語の形式を祖形とし,その祖形が上述の変化を経て成立したものと考えられる。一方,古代語との音対応からは例外的と思われるkusoo「薬」,sɨrosɨ「印」,soso「裾」という3形式は,先行研究の成果に照らすと,祖語の*oを保持した形式である蓋然性が高いことが明らかになる。このことは,服部(1978–79 [2018])が中央方言で起こったとした狭母音化*o > uという変化を,仁多方言が経験していないことを示唆する。他の本土諸方言においても,中央方言で狭母音化によって失われた祖語*oや*eが保持されている可能性があり,それらについて比較言語学的観点から再検討していくことがこの分野の今後の課題である。

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© 2024 日本言語学会, 著者
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