言語研究
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論文
  • 平子 達也
    2024 年 165 巻 p. 1-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル フリー

    島根県出雲地域で話される出雲仁多方言における母音をめぐる音変化を,古代語との比較にもとづいて,相対年代とともに推定した。仁多方言では,中舌母音化*u, *i > ɨと母音の低下*u > o, *i > eに加え,rの隠在化と呼ばれる変化が起こった。現代仁多方言の形式のほとんどが,古代語の形式を祖形とし,その祖形が上述の変化を経て成立したものと考えられる。一方,古代語との音対応からは例外的と思われるkusoo「薬」,sɨrosɨ「印」,soso「裾」という3形式は,先行研究の成果に照らすと,祖語の*oを保持した形式である蓋然性が高いことが明らかになる。このことは,服部(1978–79 [2018])が中央方言で起こったとした狭母音化*o > uという変化を,仁多方言が経験していないことを示唆する。他の本土諸方言においても,中央方言で狭母音化によって失われた祖語*oや*eが保持されている可能性があり,それらについて比較言語学的観点から再検討していくことがこの分野の今後の課題である。

  • 野地 美幸, 藤井 みずほ, 河内 健志
    2024 年 165 巻 p. 33-57
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル フリー

    日英語のtough構文は本質的にかなり異なる。本研究は,L1日本語の学習者(中高生)による英語のtough構文の産出,そしてL2インプットとL1がそれに与える影響を調べた。JEFILLコーパスと英語の教科書を分析した結果,中高生の英語のtough構文の産出は限定的であったが,使用頻度が高い述語が教科書分析の結果と合致したことから,インプットの質が影響を与えている可能性が示唆された。一方,インプットは誤文を説明できず,正文に関してもインプット量が十分ではなかった。また,産出されたtough構文の特徴は正文・誤文共にL1と合致したことから,L1転移の可能性が示唆された。さらに,誤文で見つかった残留代名詞に関して追実験でその存在の検証を行った結果,学習者の中間言語がそれを許容していると考えられ,学習者の産出するtough構文も英語母語話者とは本質的に異っている可能性が示唆された。

  • ――西夏文字の字音推定の限界の所在について――
    濱田 武志
    2024 年 165 巻 p. 59-84
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル フリー

    本論文は,西夏語の韻書『文海』の,第三字で調類を指定する特殊な反切について考察する。『文海』巻一(平声巻)掲載字のうち,反切に第三字「𗨁」“上”を伴うものは本来上声で読むはずの「偽平声」字の一部である。「偽平声」が生まれた理由は,異なる調類の間で韻目が合併したためと考えられる。換言すれば,「偽平声」字は上声の「欠番韻目」所属字であり,具体的にはR13,R32,R39,R41,R50,R83,R88,R102の上声韻が「欠番韻目」と考えられる。但し,反切の繫聯状況と「反切下字が調類の指示機能を担う」という前提からは,数多くの字が「偽平声」である可能性が得られてしまう。これに対し本論文は,『文海』内部で反切の理論的基礎と分韻の学理との間に不一致がある可能性,ならびに,この不一致が西夏語音韻学自身の複層性に由来しており,『文海』内部に西夏語音韻学のより古い学理の分析結果が痕跡的に残存している可能性を指摘する。

  • 大竹 昌巳
    2024 年 165 巻 p. 85-110
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,10–12世紀に中国東北方で話された,モンゴル諸語と系統関係を有する契丹語の語音調がどのように実現したかを,当時当地で使用された遼代漢語との対音資料を用いて実証的に明らかにする。予備的作業として,先行研究の発見にかかる,契丹小字文献中の漢語語彙に見られる特殊表記を批判的に検討して定量的に再分析し,そこから遼代漢語の声調体系に関する重大な帰結が導けることを論じる。その帰結を前提として,遼代漢字文献中の契丹語音訳語彙に使用される音訳漢字を音写語内の位置別に定量的に分析し,位置による顕著な声調の選好が存在することを明らかにする。さらにこの選好を遼代漢語の時間的変異性に着目して現代モンゴル諸語の音調も参考に解釈することで,契丹語が語の始端境界と終端境界をL音調とH音調とでそれぞれ標示する言語であったことを明らかにする。

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