抄録
近年になって海水中の微量元素に関する報告が相次ぐ中、Scは極微量である上適当な分析手段がないため、1972年以降報告例はほとんどない。そこで本研究では水酸化鉄共沈法によってScを濃縮、分離した後に、Scを高感度に測定可能な放射化分析法を用いて海水中のScを測定した。太平洋黒潮域、ハワイ沖、東部太平洋沖における表面海水のSc濃度はアジア大陸から離れるに従って減少する傾向が見られた。ハワイ沖の測点については深度別の海水の測定を行なった。Scの鉛直分布は表層で極小をとり深度に従って増加する傾向を示した。同一海水中の希土類元素をICPMSによって測定した結果、深度に従って増加する典型的な鉛直分布を示し、Scと希土類元素はよく似た分布を示すことがわかった。この結果から海洋中のScと希土類元素はよく似た挙動を示すものと考えられる。