海底下生命圏はおそらく地球上で最もバイオマスに富む空間でありながら、その系統学的多様性や代謝様式は陸域や海洋といった表層世界もしくは地球内部からのエネルギーフラックスに依存するため一様ではなく、全体的に生物学的活性が極めて低い静かな世界である。海底下の微生物は、エネルギー供給に窮しながらも地質学的な時間スケールで代謝呼吸もしくは有機物発酵などによって生命活動を維持し、とりわけ大陸沿岸などの堆積物環境において地球化学的な物質循環に大きな影響を与えていることが示唆されている。本講演では、世界初の海底下生命圏探査掘削航海であったODP Leg 201や2006年に行われた地球深部探査船「ちきゅう」の慣熟訓練航海によって下北沖から掘削採取されたコア試料の研究などを例に、海底下生命圏に関する地球化学や微生物学の最新の知見を紹介し、今後の研究展開について議論する。