抄録
将来の放射性廃棄物地層処分で遭遇すると考えられる坑道周辺は,地下岩盤(岩石・鉱物)と地下水で満たされた地下地質環境と,グラウト材やコンクリート支保材などの人工材料とのインターフェースである。また,操業に伴って酸化還元反応などの長期的な物理的・化学的変化を伴う。これまでのわが国の地層処分の性能評価においては,これらの複合状態(より現実的な状態)の理解が不十分であり,信頼性の高い安全評価体系を整備するためには,実環境をより現実的に示すことのできる地球化学的現象とそこでの緩衝作用に関する情報(データ)を早急に整備することが必要である。とくにこれらのデータは,多重バリア性能の健全性を明確にするための,ニアフィールド(NF)のSafety caseを抽出/構築する上で不可欠である。結晶質岩を事例にしたNFにおける地球化学的現象の検討本邦に広く分布する花崗岩および花崗閃緑岩などの結晶質岩は,多くの割れ目(帯)を有することが特徴である。結晶質岩中の割れ目頻度は,その岩体の形成年代が比較的若い(ジュラ紀以降)にもかかわらず1~2本/m2程度と高く1),欧米の楯状地を形成する数億年~数十億年の古期花崗岩体中の割れ目に比べて一桁以上の高い頻度(密度)を有する2)。この違いは,我が国が変動帯という特異的な地質環境にあり,結晶質岩が長期に渡る応力・歪みを経てきた結果と言える。また,割れ目充填鉱物の種類に関しても,欧米の楯状地では熱水による沈殿鉱物が主体であるのに対し,わが国では粘土鉱物や粘土状の‘ペースト状のもの’といった天水起源の地下水との反応による特徴的な充填鉱物の形成が認められる3)。このような地下環境に空洞を建設することは,長期にわたる地質時間に地下環境を形成する岩石・鉱物と地下水との反応によって形成された‘平衡状態’にある「場」を擾乱する。すなわち,処分場閉鎖までの期間に掘削前とは異なった地下地質環境に変化させることを意味する。その状態変化は,我が国と欧米の安定した陸塊では,そこに存在する割れ目や断層の性状が異なるため,必ずしも同様なものになるとは限らない。また,そのような状態変化が閉鎖後にどのように元の状態へと戻っていくのか,あるいは戻らずに掘削前とは異なった平衡状態へと移行していくのか,などといった長期的視点に立脚した処分場全体の安全評価のフレームワークを構築することが必要であり,処分場の数万年という長期的安全性を評価するという観点からはなされるべきであろう。つまり地球化学的には,どのような複合反応が,どのような速度で進行し,将来的にどのような状態へと(みかけの)平衡状態へ再度収束していくのかをできるだけ精度よく外挿する方法を提示することが求められる。このような,多重バリアシステムにおける各種現象の adjust は,長期(地層処分で検討するおおよそ数万年~数十万年の時間スケール)にわたる地下環境機能を精度よく提示するためにも必要であり,とくに地球化学的プロセスはその重要な部分をなす。しかし,未だ地球化学関連専門家による貢献は十分とは言えない状況にある。本報告では,NFバリア機能に関する地球化学的課題を整理し,長期的な安全評価に不可欠な地球化学的プロセスの抽出を試みる。1)Yoshida,H.et al. (2005) Engineering Geology,78, 275-284.2)吉田英一ほか(2009)応用地質, 50, 16-28.3)Yoshida,H.et al. (2009) Engineering Geology, 106, 116-122.