抄録
湿潤熱帯地域は土壌塩基成分の流亡のために、土壌は酸性を示すことが知られている。一方、寒冷で比較的乾燥した地域では土壌中にカルシウム等の沈積が見られる。大気沈着物によってもたらされる生態系の酸性化現象にとって、このような気候帯による土壌の違いは重要な要因となると考えられるが、これまで生態系の感受性の違いを土壌生成学的要因の点から明確に実証した研究は世界的にもきわめて乏しい。そこで、本研究では中国の亜熱帯域と亜寒帯域、わが国の温帯域を含む計6地域で最深部までの土壌の化学性、渓流河川水質等の比較調査を行った。土壌の塩基成分含量および酸性度には、気候系列に沿って大きく系統的な変化が存在すること、中国亜熱帯の一部では自然要因に人為要因(酸性原因物質の負荷)が加わったことにより、顕著な土壌塩基流亡ならびに流域全体の酸性化が生じていることが明らかになった。