抄録
水鉱物中の水素の自己拡散は先行研究が少なく、その微視的な機構については明らかになっていない。ポートランダイト Ca(OH)2は層状水酸化鉱物で、その結晶構造は[CaO6]八面体層と蜂の巣格子状にOH基が配列したプロトン層が交互の積み重なることによって構成される。このような単純な構造のために、ポートランダイトは水素の自己拡散の微視的機構を明らかにするうえで適切なターゲットであるといえる。また、プロトン層の水素の配列は珪酸塩鉱物の水和した粒界に類似すると考えられ、ポートランダイトの水素の拡散係数から、水和した粒界中での水素の拡散速度を大まかに見積もれるはずである。本研究ではポートランダイトの結晶に重水素を拡散させ拡散係数を決定し、拡散の活性化エネルギーから水素の拡散の微視的機構を明らかにした。