抄録
遺跡から出土する古人骨や動物骨には、生前の生活に関する様々な痕跡が残されている。これらの情報は、物質文化を中心に研究がすすめられてきた考古学では得られない様々な人間活動の直接的な証拠として、近年注目を集めている。本報告では、縄文時代の古人骨、動物骨における地球化学的な分析から、現在どのような議論が行われているかを紹介し、新たな分析手法の応用の可能性について議論したい。縄文時代は、温暖化した完新世の環境のなかで農耕や牧畜といった食料生産を主要な生業にすることなく適応することができた定住的な社会として注目されている。1万年以上にわたる期間、亜寒帯から温帯、亜熱帯にまで拡散した縄文文化をもった人類集団の生業活動について、その多様性や地域性を同位体生態学的な視点から検討する。また、アミノ酸レベルでの同位体分析から見えてきた新しい生活様式についても紹介する。