抄録
本研究では、現代の高塩環境としてシチリア島のトラパニ塩田、また、およそ600万年前から70万年間にわたって地中海の海底下に厚さ2kmほどの蒸発岩層を形成した「メッシニアン塩分危機」に着目し、塩分の変化に対する生態系の応答を有機分析によって明らかにする。
トラパニ塩田の石膏試料の色素分析により、石膏内部に生息しているシアノバクテリア、緑色硫黄細菌、紅色硫黄細菌由来のクロロフィル化合物が検出された。塩分危機時の蒸発岩試料としては、シチリア島で採取した石膏とそれに挟まれた黒色頁岩を用いた。この黒色頁岩層は、高塩化の進行の過程で一時的に淡水が流入したことで堆積したと考えられている(Lugli et al., 2010)。色素分析の結果、黒色頁岩中にはイソラニエラテンが含まれていることがわかった。イソラニエラテンは、絶対嫌気性の光合成細菌である緑色硫黄細菌によってのみ合成される。このことは、当時の海洋が重い高塩水の上を淡水が覆う成層状態にあり、亜表層の高塩水が無酸素化していたことを示唆する。