筆者らは、広島県の幻鍾乳洞から採取した石筍の50層準について、炭酸凝集同位体を測定した。凝集同位体(Δ47)は、試料母液の同位体組成に依存しない新しい温度指標であり、測定結果には、最終氷期から完新世(18.0−4.5 ka)の温度上昇が記録されていた。絶対温度への換算は、沈殿温度が既知の試料によってなされ、非平衡効果によるΔ47温度への影響を除くため、酸素同位体組成との相関を持たない期間の測定結果は棄却された。Δ47温度は、完新世 (11.0−4.6ka) が6.7−20.3 ℃(平均13.9 ℃)であり、最終氷期 (18.0−12.6 ka) が3.2−12.5 ℃ (平均6.8 ℃) であった。石筍最上部である4.9−4.7 kaの3点には9.4−9.7 ℃の温度が記録されており、現在の洞窟内温度10.7 ℃と大きな差異は無い。