p. 258-
水銀は生物に濃縮されやすく、微量であっても人体に影響を与える重金属であるため、人への主な暴露経路である水圏の水銀循環を理解することは重要である。これまで、環境中の水銀の汚染評価、起源推定の指標として水銀濃度や化学形態の分析が用いられていた。さらに現在、同位体比を用いた分析が注目されている。水圏試料の水銀同位体比測定例としては、比較的水銀濃度の高い魚介類について報告がある。しかし、魚介類の水銀摂取源である海藻やプランクトンについては水銀濃度が極めて低いため、現状では同位体比の分析が困難である。そのため、水圏での水銀濃縮過程を包括的に理解するためには食物連鎖の最初期段階に位置する低水銀濃度試料の同位体比測定法を確立することが鍵となる。そこで、本研究では微量水銀同位体分析を可能にするため、水銀濃縮法の検討を行った。