地球表層における長期的な炭素循環の制御因子の一つとして陸域の化学風化作用が挙げられる。バングラデシュのベンガル平野ではヒマラヤーチベット造山帯の活発な削剥場から供給される砕屑物と水の化学風化反応が起こっており、その履歴は河川水と地下水の化学組成に反映される。ストロンチウム同位体比は溶質の供給源や二次鉱物との反応を反映する。本研究ではベンガル平野で採取されたガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川の河川水ならびにベンガル平野の地下水と堆積物のストロンチウム同位体比から、化学風化の時間変化と面変化について検討した。その結果、高山部と比べて地下水の滞留時間が長いベンガル平野の氾濫原においても、風化様式は上流部と同様に、化学反応が岩石風化の総量を制限する風化制限型であることが示唆された。ベンガル平野に流入する河川系の風化様式について、「活発な岩石の削剥が起こる高山地帯では風化制限型、上流から供給された風化残留物が堆積する氾濫原では輸送制限型」とする仮説は支持されない。