日本地球化学会年会要旨集
2020年度日本地球化学会第67回年会講演要旨集
選択された号の論文の202件中1~50を表示しています
基盤セッション
G1 大気とその境界面における地球化学
  • 伊藤 彰記, Ying Ye, Clarissa Baldo, Zongbo Shi
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 1-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    鉱物及び燃焼起源のエアロゾルは、海洋表層へと重要な栄養塩(鉄)を供給し、海洋生態系および気候へ影響を与える。本発表では、屋外観測、室内実験、大気および海洋物質循環モデルによって近年得られた知見をまとめた。最新の屋外観測および室内実験結果では、燃焼起源エアロゾルが、鉱物起源に比べてかなり高い鉄溶解率を示した。最先端の数値モデルでは、鉱物エアロゾルに加えて、燃焼起源エアロゾルが、大気から海洋への溶存鉄供給量の20%程度寄与した。そこで、海洋物質循環モデルを用いて、燃焼起源による溶存鉄の海洋生態系への影響が評価された。その結果、モデルにより応答の相違はあるが、鉱物エアロゾルと比較して、燃焼起源エアロゾルは、より効率的に植物プランクトンの成長を促進することが示唆された。それらの結果から、燃焼起源エアロゾルによる海洋施肥効果をより正確に予測するために今後必要な研究に関して議論する。

  • 服部 祥平, 亀崎 和輝, 吉田 尚弘
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 2-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    大気中の硫化カルボニルは、成層圏硫酸エアロゾルの主たる硫黄供給源として地球の放射収支に負の影響を有する。また、地球規模の光合成速度を求めるための主要な指標としても注目されている。本研究では、硫化カルボニルの生成起源によって異なる硫黄安定同位体組成に注目し、日本国内3地点で観測を実施した。その結果、南の観測地点での硫黄同位体比の減少を発見し、中国からの人為的な放出が硫化カルボニルの重要な生成起源の一つであることを明らかにした。また、硫黄同位体比を制約とした硫化カルボニルの収支計算から、人為活動による放出がこれまで考えられてきた以上に重要であり、ミッシングソースの大きな割合を占めていることを発見した。

  • 孟 繁興, 伊藤 駿, 南川 佳太, 宮下 直也, 大木 淳之
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 3-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    大気や海洋中には揮発性有機ヨウ素化合物 (VOI) がある。VOIのほとんどは海洋生物により生成されると報告されている。北海道噴火湾においてVOIのうちヨードメタンとヨードエタンの2成分について、春季ブルーム後の4月から6月にかけて底層で濃度が増加すると報告された。本研究では、6年間にわたる海洋観測の結果をまとめるとともに、噴火湾の春季ブルームで採取された珪藻懸濁物を使って、VOIの生成を調べる培養実験を行った。例年、珪藻ブルームが発生する直後に、海底付近でヨードエタン高濃度化するのが顕著であった。珪藻ブルームで生産された有機物が、ブルーム直後に海底面に堆積する様子が確認されている。珪藻懸濁物をバイアル瓶に密封して同水温で培養したところ、その培養ボトル中でヨードエタンが著しく増える結果が得られた。噴火湾の底層でヨードエタン濃度が増加する現象は、珪藻由来の有機物粒子が分解する過程で生じることが明らかとなった。

  • 桑原 智大, 平井 亜季, 渡辺 悠也, 中野 隆志, 松本 潔
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 4-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    エアロゾル中アミン化合物の発生源を明らかにするため、森林域及び海洋域で採取したエアロゾル試料について、アミン化合物を分析し、濃度や粒径分布を明らかにした。アミン化合物の粒子化プロセスを明らかにするため、森林域ではガス試料も採取した。本研究で対象としたアミン化合物は、メチルアミン(MA)、エチルアミン(EA)、ジメチルアミン(DMA)、ジエチルアミン(DEA)である。森林域では、ガス態MA濃度はアンモニアガス濃度と有意な相関関係を示した。このことから、ガス態MAはアンモニアガスと同様な発生源を持つ可能性が示唆された。海洋域では、微小粒子中のDMA濃度は微小粒子中メタンスルホン酸濃度と比較的良い相関関係を示した。このことから、海洋域では海洋生物活動がこれらのアミン化合物の発生に関わっている可能性が示唆された。

  • 渡辺 幸一, 楊 柳, 長堀 友, 尾形 佳行, 中村 賢, 大谷 卓也
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 5-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    富山県射水市上空において小型ヘリコプターを利用し、過酸化水素およびホルムアルデヒド濃度の測定を、オゾン、二酸化硫黄および粒子個数濃度の計測と共に行った。通常、過酸化水素濃度は上空で濃度が高く、ホルムアルデヒドは地上付近で高濃度となった。寒候期においては、二酸化硫黄濃度に対して過酸化水素が低濃度であり、大気液相中で硫酸の生成よりも二酸化硫黄とホルムアルデヒドとの反応によるヒドロキシメタンスルホン酸生成が卓越するものと考えられる。2020年8月5日に観測を行った際には、西之島の噴火活動の影響が北陸地方にも伝わっており、二酸化硫黄や粒子個数濃度が高かったが、過酸化水素濃度は夏季としては非常に低く、二酸化硫黄の酸化に消費されていたものと考えられる。

  • 頼 鵬, 中川 書子, 角皆 潤, 丁 とう, 野口 泉, 山口 高志
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 6-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    ガス状亜硝酸(HONO)は窒素酸化物(NOx)の酸化除去反応を駆動するOHラジカルを放出するため、大気化学的に重要な微量気体成分である。フィルターパック法を用いて、HONOおよびNO2をNO2-態で捕集し、その三酸素同位体組成を定量したが、炭酸カリウム含浸フィルター上にはHONO以外NO2-となる物質が一緒に捕集され、HONOの観測されるΔ17O値が真値からずれてしまうことが明らかになった。そこで、ブランクの影響を差し引くため、多段フィルターに改良した捕集システムを開発し、定量に成功した。

  • 秋田谷 美乃, 吉仲 由季子, 野尻 幸宏
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 7-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    全国環境研協議会が1991年度から実施している酸性雨全国調査では1991-2015年度のうち、丸19年の期間において、全国50地点以上で採取した降水試料中の無機化学成分を分析し、データを国立環境研究所地球環境研究センターのデータベースから公開している。 このデータセットから汚染や強いローカル排出源の影響とみなされる外れ値除去を行った。地下水観測のデータ表現にならってパイパープロットで表すと、陽・陰イオンとも、海塩を末端成分とする直線に分布し、降水中のMg/Ca比とNO3/SO4比が全国的にほぼ一定値となっていることが分かった。データを利用して、降水中無機成分の濃度比について、地域性、季節性、経年変化の評価を行っている。 また、2018年12月以降、弘前市と五所川原市で日毎の降水・降雪試料を採取し、イオンクロマトグラフで陽・陰イオン成分を分析している。全国調査の観測値と青森県内の計測値を比較し、日別観測値から得られる情報を解析している。

  • 橋本 燎, 亀山 宗彦, 佐藤 孝紀, 小川 浩史
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 8-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    雷放電は大気中では窒素の酸化を促し、自然起源の窒素酸化物の主要な生成要因となる(Wang et al., 1998)。雷放電は積乱雲を形成しやすい陸域で多く発生するが、海洋域でも定常的に見られていることが分かっており、気候変動等による将来の雷放電の増加が予想されている(Romps et al., 2014、Thornton et al., 2017)。本研究では、気相中・液相表面において、プラズマ放電を人工的に起こすことで、自然界における雷放電や海面への落雷を模擬し、窒素酸化物の生成・消費とその質の変化について定量的に評価する事を目的とした。本研究では、雷放電による窒素酸化物の生成を定性的に評価するための項目と定量的に評価するための項目に分けて、実験を行った。実験には、北太平洋亜熱帯域で採水されたキャリア海水を用いた。その結果、窒素酸化物は主に気相で生成され、それらの生成量は湿度、パルス長、電圧、気圧等によって変化することが分かった。

  • 酒井 晃, 奥田 祐樹, 橋本 伸哉
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 9-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    揮発性有機化合物に含まれるハロカーボンは、オゾンの分解などに関与しており地球の大気環境に影響を与えている。これまでに、ハロカーボンの生成について熱帯植物や海洋植物プランクトン等に着目した研究は多く行われている。しかし、海洋に広く分布し、工業的利用も検討されているラビリンチュラ類によるハロカーボン生成に関する報告はほとんどされていない。そのため本研究では、ラビリンチュラ類について培養実験を行い、モノハロメタンを含む揮発性有機化合物生成及びその生成への培養温度の影響について調べた。実験ではラビリンチュラ類ヤブレツボカビ科を研究対象とし、25℃及び30℃での培養実験を行った。実験の結果、本研究で使用したラビリンチュラ類によるCH3Clの生成には温度が影響することが示唆された。また、CH3Iの生成量は過去の研究と比較しても多量であり、ラビリンチュラ類が海洋環境中でのCH3I生成に関与している可能性が考えられた。

  • 名取 幸花, 栗栖 美菜子, 川名 華織, 柴田 智郎, 横尾 亮彦, 大倉 敬宏, 森 俊哉, 髙橋 嘉夫
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 10-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    大気エアロゾル中の人為燃焼起源鉄は、地殻平均に対して4‰程度低い鉄安定同位体比を示すことが報告されている。これは気化に伴う同位体分別によるものと考えられるが、大気中への気化を経た鉄の供給源としては火山活動も該当する。本研究では、粒径別に採取した火山起源エアロゾルが低い鉄安定同位体比を示すかを明らかにすることを目的に、阿蘇山火口にて粒径別7分画で採取したエアロゾル試料の化学分析を実施した。鉄安定同位体比は粗大粒子では地殻平均に近い0-0.2‰を示し、微小粒子では-0.3~-0.5‰を示した。人為起源エアロゾルほどの低い同位体比は認められないが、その粒径依存性は人為起源エアロゾルと同様であり、微小粒子の鉄安定同位体比は火山からの気化成分を反映している可能性がある。また、鉄に比べて揮発性が高い亜鉛も同時に分析し、気化による同位体分別効果にその揮発性の違いが反映されるかについても検証した。

  • 岩本 洋子, 亀崎 和輝, 服部 祥平, 三浦 和彦, 植松 光夫
    専門分野: G1 大気とその境界面における地球化学
    p. 11-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    黒潮域の基礎生産におよぼす大気起源窒素の影響を調査するため、2015年秋季の黒潮域において採取した大気試料中の無機態窒素成分の濃度から、同海域への大気起源窒素の乾性沈着フラックスを推定した。大気エアロゾル中で、硝酸は主に粗大粒子、アンモニウムは主に微小粒子として存在し、アジア大陸からの気塊が到達した期間に高い濃度が観測された。エアロゾルの乾性沈着による窒素沈着フラックスは、平均で1日1平方メートルあたり0.48 mgNと推定された。仮に黒潮域の植物プランクトンによる基礎生産が窒素のみに制限されており、大気からもたらされる窒素の全てが基礎生産に使われると仮定すると、大気起源窒素による炭素の取り込みはレッドフィールド比を用いて1日1平方メートルあたり3.7 mgCと見積もられた。

G2 環境地球化学・放射化学
  • 淵田 茂司, Xue Jifeng, 石田 紗菜, 所 千晴
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 12-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    黄鉄鉱は地殻内に最も多く存在する硫化鉱物であり,金属鉱床やその他還元的な環境に広く分布する。黄鉄鉱は酸素およびその他酸化剤と接触することで酸化と溶解が同時に生じる。この反応は地球表層における鉄および硫黄循環システムで重要な役割を担い,鉱床形成や水質形成などの地質学あるいは地球化学プロセスと密接にリンクする。黄鉄鉱の酸化に関する多くの研究が存在するが,その大部分は鉄が沈殿しない酸性領域あるいは陸上鉱床の酸性坑廃水生成と関連のある酸性~中性領域で実施したものが多く,高アルカリ条件における黄鉄鉱の酸化溶解速度に関する知見は意外と少ない。海水やアルカリ環境,浮選などの工業分野における黄鉄鉱の挙動を正確に把握するうえで,アルカリ条件下における黄鉄鉱の速度論的考察は非常に重要な意味を持つ。本研究ではpH~12の条件で黄鉄鉱の短期酸化溶解試験を実施し,律速となる反応プロセスについて考察した。

  • 塚田 祥文, 山口 紀子, 山田 大吾
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 13-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    土壌に沈着した放射性セシウムは、大部分が粘土鉱物に固定される。しかし、特に草地土壌においては、土壌に十分な放射性セシウム固定部位があるにもかかわらず、一部の放射性セシウムが比較的動きやすい形態で存在している傾向がある。草地土壌で放射性セシウムの粘土鉱物への固定反応が進行しにくい要因として、根や作物残渣などの有機物に取り込まれた状態で放射性セシウムが存在すること、粘土鉱物を被覆する有機物により、放射性セシウムの固定が妨げられることなどが考えられる。本研究では、有機物に含まれる放射性セシウムに着目し、草地土壌中の有機物に含まれるセシウムを逐次抽出法と比重分画法で分別し、137Cs/133Cs比放射能から、2011年に沈着した137Csが蓄積している画分を明らかにした。

  • 越川 昌美, 渡邊 未来, 玉置 雅紀, 伊藤 祥子, 高松 武次郎, 村田 智吉, 齋藤 隆, 林 誠二
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 14-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    土壌中のCs-137のうち、植物に移行可能な可給態Cs-137の測定は、農作物のCs-137濃度の予測や森林動態を調べる上で必要である。これまで植物に移行可能なCs-137の評価には、アンモニウム塩抽出による交換態Cs-137が用いられてきた。しかし我々は、Cs-137の持つ特異的な土壌吸着特性を考慮して、安定Cs塩抽出により可給態Cs-137を測定する手法を考案した。本発表では、1) 実験室でCs-137を吸着させた標準鉱物の抽出実験、2) 原発事故由来Cs-137を含む農地土壌の抽出実験、3) コキアのポット栽培実験の結果を紹介し、0.1 M 安定CsCl抽出がCs-137の可給性評価に役立つ可能性を示す。

  • 出井 俊太郎, 宮川 和也, 笹本 広, 舘 幸男, 天野 由記, Paul C. M. Francisco, 杉浦 佑樹, 高橋 嘉夫
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 15-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価において、セレン(79Se; 半減期: 300 kyr)は人工バリアや天然バリアである岩盤に収着されにくいと考えられる。一方で、セレンは鉄水酸化物に収着することが室内試験より報告されている。本研究では、深部地下環境におけるセレンの長期的な収着挙動を理解するために、北海道幌延地域の堆積岩を対象にセレンの化学形態分析を実施した。 堆積岩中のセレンの化学形態について、逐次抽出試験およびXAFS分析を実施した結果、セレンは–I価または0価の還元的な形態で堆積岩中に存在することが明らかになった。µXRF分析より、セレンはパイライトに濃集していることが示唆された。セレンはパイライト中の硫黄と置換し、固体中に取り込まれることが報告されており、同様の形態で初期続成作用時からセレンが長期間保持されている可能性が考えられる。今後、堆積岩中のパイライトへのセレン収着メカニズムを明らかにする予定である。

  • 竹田 和志, 櫻庭 夏海, 野尻 幸宏
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 16-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では青森県津軽地域の山地渓流水で主要溶存無機成分を測定し、流域の岩石風化を評価した。主たる調査域は八甲田西麓山間地の平川支流の小河川浅井川と枇杷田川である。2019年1月から月1~2回の試料採取を実施してきた。年間を通じて主要溶存無機成分には下流に向かう濃度増加傾向が見られ、流下に伴う成分供給が示された。平川本流や堆積岩で形成される白神山地の小河川と比較して、浅井川、枇杷田川とも溶存Si濃度は非常に高く、流域に広く分布する凝灰岩などの風化を反映していると考えられた。Naと塩化物イオンの濃度比から水中のNaの海塩に対する濃縮比を求めた。融雪期にNaの濃縮比は低下し、海塩比に近づいた。一方で、夏にはNa濃縮比が増大した。これは、河川水に占める地下水の寄与比が高まること、水温上昇でアルミノケイ酸塩鉱物の風化が促進されることによると考えられた。

  • 恩田 裕一, 谷口 啓輔, 吉村 和也, 加藤 弘亮, 高橋 純子, 脇山 義史
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 17-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原子力発電所 (FDNPP) 事故は、チェルノブイリ原発事故以来最大量の放射性セシウムを陸上環境に放出した。本講演では、 FDNPP事故の結果としての陸上環境における放射性核種、特に放射性セシウムの沈着と分布・移動についてこれまでの研究成果をレビューした。Cs-137の沈着後,上流域で水田,耕作や居住活動などの人為的活動は、河川ネットワークにおける浮遊土砂 (SS) 輸送のCs-137濃度の急速な低下をもたらし、これらの低下は河川水中の溶存Cs-137濃度を直接コントロールすることがわかった。これはチェルノブイリ後の定説(Fixationが濃度を支配する)とは異なる結果である。さらに,福島の事故の環境影響をチェルノブイリと比較し、チェルノブイリ周辺地域と比較して福島地域の比較的迅速な環境修復の要因と今後の課題について議論する.

  • 櫻庭 夏海, 竹田 和志, 吉仲 由季子, 野尻 幸宏
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 18-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    河川水が山地から平地に流下する間に、河川水の溶存成分濃度は流域の影響で変化する。本研究では、青森県平川市内の中小河川の溶存ケイ酸と無機イオン濃度とその季節変化を調査した。調査により河川水のケイ酸濃度に流域の稲作が影響を与えることが分かり、中小河川の濃度観測とともに、試験水田において稲作期の水質変化を計測した。水田内用水のケイ酸は、作付け初期に大きく濃度低下した。その後濃度は上昇するものの、流入水より低い濃度で推移した。収穫期には流入水と水田内用水の濃度差が見られなくなった。特にイネの生長初期に灌漑水のケイ酸が積極的に吸収され、水田内用水のケイ酸は枯渇する。イネは生長中に灌漑水中のケイ酸を利用し続けるが、使い切ることはなくなる。平川市内で水田灌漑水に利用されている中小河川で、上流域のケイ酸濃度より下流域のケイ酸濃度が大幅に低下する現象が見られ、稲作が河川水質に影響を与えていることが分かった。

  • Michael Oluwatoyin Sunday, Taiwo Tolulope Ayeni, Kazuhiko Takeda, Hiro ...
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 19-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    過酸化水素 (H2O2) は河川水中に存在する活性酸素の中で最も安定な化学種であり、µM濃度レベル以上では水生生物に有害である。そのため、水中での H2O2 有害性を評価するため、日本の12の河川水中 H2O2 濃度をフェントン法により測定し、その生成要因について考察した。DOMの光学特性は、UV吸収特性を利用しPARAFAC解析により調べた。結果、H2O2 濃度は21–2929 nMであり、国分川において特に高い値を示し、予測無影響濃度(PNEC)を超過した。PARAFAC解析から、国分川では洗濯洗剤に含まれる蛍光増白剤が H2O2 の光化学的生成に大きな影響を与えることが示された。

  • 伊藤 健太, 淺原 良浩, 山本 鋼志
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 20-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    閉鎖性海域は、外洋との海水交換が悪いため河川などから流入する汚濁物質などが蓄積しやすく、重金属汚染が問題となっている。閉鎖性海域である大阪湾には、流域に工業地帯と大きな人口を有する淀川などからの流入があり、汚濁物質が滞留している可能性がある。鉛は、古くから利用されてきた金属で、現在も様々な用途で使用されている。鉛は、岩石、土壌などの岩石風化生成物にも一定量含まれている。特に花崗岩などの鉛含有量は比較的高いため、花崗岩分布域周辺の河川堆積物などの鉛濃度は高いことが多い。大阪湾の表層堆積物の重金属元素の分析では、高濃度の鉛が分布する海域が見られたが、人為由来と天然由来の定量的評価は行われていない。本研究では鉛の同位体比を利用して大阪湾堆積物中の人為起源鉛の起源の特定を試みた。

  • 下鶴 優美, 児玉谷 仁, 神﨑 亮, 冨安 卓滋
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 21-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    水俣市での水銀調査は、海域の研究は多い一方で、陸域ではあまり行われていない。しかし、水銀は高揮発性で、大気拡散する特徴を持つ。そこで、大気を通じた水銀の拡散状況を見ることを目的とし、水俣市の新日本窒素(株)(現JNC(株))周辺の極力未攪乱であると考えられる林間の柱状土壌試料を採取し、風向き、工場からの方角、距離に応じた総水銀濃度(T-Hg)及び有機水銀濃度(Org-Hg)の三次元変動を調査した。また、各地点の土壌の特性と水銀との関係を見るため、土壌化学成分や粒径も測定した。その結果、柱状試料のT-Hgは表層で高く、深部でほぼ一定の低い値を示す傾向があった。また、T-Hgが高い層と一定層で土壌化学成分の顕著な差異はなく、粒径の小さい粒子ほどT-Hgが高い傾向があった。これは水銀の大気からの沈着を示唆しており、深部の一定値をもとに水銀沈着量を求めると工場に近いほど高い傾向が見られた。また、T-Hg中のOrg-Hgの割合は表層付近で上昇する傾向が見られた。

  • 辻 浩明, 秋吉 雄大, 浅川 大地, 浅岡 聡, 中下 慎也, 岩本 洋子, 佐久川 弘, 竹田 一彦
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 22-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    半閉鎖性水域である瀬戸内海周辺域の海底堆積物・河川水・大気中のPAHs濃度を測定した。瀬戸内海の堆積物中17種PAHs濃度は平均値198 ng g-1dw、河川水中17種PAHs濃度は黒瀬川で176±9.1 ng L-1、淀川で21±3.0 ng L-1、大阪市の大気中12種PAHs濃度は2.3±1.8 ng m-3であった。これらの実測値や文献値を基に、瀬戸内海周辺域のPAHsの大気沈着フラックス及び河川流入フラックス、海底への堆積フラックスを見積もり、物質収支について考察した。

  • Taiwo Tolulope Ayeni, Yoko Iwamoto, Kazuhiko Takeda, Hiroshi Sakugawa, ...
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 23-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    天然水中の溶存有機物(DOM)は腐植物質などの様々な有機物の混合体である。本研究は、日本の河川水中のDOMの光学特性を解明し、さらにDOMからの活性酸素(ROS)の光化学的生成過程を明らかにすることを目的とした。河川水中DOMの化学組成を知るために、蛍光性DOMについてPARAFAC解析を行った。5つの河川の溶存有機炭素濃度は79.5–237 µM Cであり、紫外吸光度や蛍光特性などの光学パラメータとの相関関係が認められた。PARAFAC解析から全ての河川で陸起源フミン様物質及びトリプトファン様物質の存在が示された。しかし、国分川では蛍光増白剤や高分子の物質が含まれていた。これら蛍光性DOMのROS生成能力は河川により異なり、国分川で高く淀川と大和川で低かった。

  • 日高 洋
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 24-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    中央アフリカ・ガボン共和国東部のフランスヴィル堆積層群に産する6つのウラン鉱床のうちの1つであるオクロ鉱床は,今から約20億年前に自発的に核分裂臨界に達した痕跡のある,いわゆる「天然原子炉」の化石である。天然原子炉発見から50周年となる2022年を迎えるにあたって,一部ではオクロ研究を再開しようとする計画がある。本講演では,2010年以降の10年間におけるオクロ天然原子炉関連の研究内容について紹介する。

  • 飾森 順子, 大野 剛, 深海 雄介
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 25-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    ウラン(U)は核燃料の主成分であり、その使用は規制されているため、Uの環境動態把握は重要である。環境中のU同位体には、234U、235U、236U、238Uが存在し、Uが核燃料として用いられる際に236Uが生成されるため、236Uは濃縮ウランを起源として、人為的要因により環境中に放出されてきた。一方、我々のこれまでの研究では、東京の大気降下物試料(気象庁気象研究所)における236U/238U・235U/238U経年変化分析から、劣化ウラン起源の特徴が観察された(飾森ほか,日本地球化学会2019)ため、今回は、その海洋への影響を調べるため、東京湾海底堆積物に着目し研究を行った。

  • 星野 友里, 大野 剛, 深海 雄介
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 26-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    水銀(Hg)は生物に濃縮されやすく、微量であっても人体に影響を与える有害重金属である。このため、人への主な暴露経路とされる水圏における水銀循環の理解は重要である。水銀の安定同位体比変動は質量に依存する同位体分別(MDF:δ202Hg)および、質量に依存しない同位体分別 (MIF:Δ199Hg、Δ201Hg)に分類され、これらの指標を用いて水銀が経験してきた化学的 (光還元反応など)ならびに物理的(蒸発や拡散など)な現象の推定が可能であると考えられる。(Bergquist and Blum, 2007) また、水圏での水銀濃縮過程を包括的に理解するためには食物連鎖の最初期段階に位置する低水銀濃度試料の同位体比測定法を確立することが必要となる。しかしながら、魚介類の水銀摂取源である海藻やプランクトンについては水銀濃度が極めて低いため、現状では同位体比の分析が困難である。そこで、本研究では水銀濃度が極めて低い固体試料を対象とした水銀濃縮法および同位体分析法の開発を行った。

  • 門倉 正和, 淵田 茂司, 高谷 雄太郎, 石橋 純一郎, 島田 和彦, 所 千晴
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 27-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    開発中もしくは開発後の火山性塊状硫化物 (VMS) 鉱床では硫化鉱物の酸化溶解に起因する酸性坑廃水の発生がしばしば問題となる。酸性坑廃水の生成は要因となる鉱物の酸化溶解速度が大きく影響し,その溶解速度は鉱物の化学組成に加えて結晶学的な特徴によって決定される。本研究では発生源対策の計画が進められている国内のX鉱山を対象に,鉄の供給源となる鉱物種および鉱物中のヒ素の存在形態について調査した。また,実際に地下から採取された鉱石コアを使った溶出試験を実施し,X鉱山における鉄・ヒ素の溶出プロセスについて考察した。X鉱山で採取されたコア (~120 m) の固体分析及び各試料研磨片の反射顕微鏡および電子線マイクロアナライザでの分析結果から,溶解しやすい白鉄鉱が鉱山XのFeおよびAsの溶出源となっている可能性があり,発生源対策工事において深度70-85 m付近での鉱石-地下水反応を抑制することでX鉱山の酸性坑廃水の水質が改善できると予想される。

  • 日髙 昭秀
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 28-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原発事故時に環境中に放出された、不溶性放射性セシウム粒子(Type A)の生成過程を推定することは、事故進展を解明する上で有用である。著者らは、Type Aの起源として3号機のHEPAフィルタ(グラスファイバ:GF)が水素爆発時に溶融・微粒化して生成した可能性を指摘した。その場合、活性炭フィルタやGFのバインダ中の炭素がType A粒子とともに存在する可能性が高い。しかしながら、従来の観測では、粒子の固定用にカーボンテープを用いてきたため、炭素の同定が難しかった。本研究では、電子線マイクロアナライザ(EPMA)とカーボンテープ以外の試料台を用いて炭素の観測を行った。その結果、Type Aの炭素量は、バインダ起源と考えられるGFの炭素量と類似していた。これは、著者らの主張する仮説と矛盾しない。炭素の情報と他の構成元素との関係を注視しつつ、生成過程の更なる解明に取り組んでいく。

  • Sun Jing, Shigeyoshi Otosaka, Haibo Qin, Takaaki Itai, Masato Tanaka, ...
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 29-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、皇居お堀の堆積物を用いて、1830年代から現在までの東京都心の環境変動を調べることを目的とした。1870-1880年代の殖産興業によりZn、Cu、Pb、Sbなどの重金属濃度は増加し、関東大震災後に一度濃度が低下するものの、その後1960年頃までは江戸時代に比べて5-10倍程度の濃度増加がみられた。その後1970年代以降濃度の低下がみられ、現在に至っている。

  • 宮川 和大, 長尾 誠也, 芳村 毅, 加藤 寛己, 伊佐田 智規
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 30-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    溶存態有機物の主要成分である腐植物質は河川から沿岸域への鉄の移送に重要な役割を果たしている。また、腐植物質は河口域における塩分の上昇によって一部が凝集沈殿し、濃度や特性が変化することが知られている。本研究では腐植物質が持つ蛍光特性を利用し、三次元蛍光スペクトルの測定から腐植物質の蛍光ピークの波長位置や濃度を見積もり、河口域から沿岸域にかけて移動に伴う腐植物質の特性変化について検討した。北海道東部の別寒辺牛湿原を流れる河川、汽水湖の厚岸湖、厚岸湾における調査の結果、厚岸湾では腐植物質濃度の低下が確認された。さらに、腐植物質の蛍光ピーク位置が短波長側へシフトする蛍光特性の変化も認められた。発表では高速液体サイズ排除クロマトグラフィーによる分子量分布の変化も含めて考察する。

  • 榊原 厚一, 岩上 翔, 辻村 真貴, 小沼 亮平, 佐藤 雄太郎, 恩田 裕一
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 31-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    福島第一原子力発電所事故の影響を受けた森林において,降雨に伴う水流出時に溶存態放射性セシウムがリターから溶出することで,流出水中の濃度が上昇することが指摘されている.本研究では,そのプロセスを源流域の水文プロセスと関連付けて明らかにするため,森林リターを用いた溶出試験と降雨流出時の水文解析を実施した.溶出試験において,撹拌・無撹拌関わらず試験開始1時間以内のセシウム溶出速度が速く,時間の経過とともに緩やかになった.この結果を用い,降雨時の流出水のセシウム濃度を再現するために必要なリター量を算出した.その結果,流出量や飽和帯の拡大面積とリター量は量的に傾向が一致した.このことから,降雨時に一時的に形成される飽和域におけるリターからの溶出が,降雨時の流出水中の溶存態放射性セシウム濃度を上昇させる要因の一つであることが示唆された.

  • 堀 真子, 酒井 昌吾, 久保 克輝, 福井 貴良
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 32-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では二価鉄の酸化に影響する要因として、有機物の光分解によって発生する過酸化水素に注目し、室内実験と野外観測を行った。フミン酸に紫外線を照射した結果、過酸化水素の発生に伴う吸光度の上昇が認められた。酸素に飽和した水で鉄が酸化する場合、鉄(III)の割合は10%未満でほとんど時間変化しないのに対し、アルゴン雰囲気でフミン酸に紫外線を照射した条件では、3時間後に鉄(III)の割合が30%まで増加した。このことは、紫外線照射で発生した過酸化水素が二価鉄の酸化に関与した可能性を示唆する。秋田県に自噴する熱水泉と島根県の三瓶温泉で実施した野外観測では、過酸化水素濃度と全鉄濃度、鉄(III)の割合をその場測定し、時系列変化を得た。鉄(III)の割合はいずれの熱水泉でも0~10%程度となり、日射量が比較的高かった午前中にわずかに上昇する傾向を示した。

  • 長谷川 菜々子, 板井 啓明, 高橋 嘉夫, 栗栖 美菜子, 名取 幸花, 国末 達也, 田辺 信介
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 33-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    生体と環境中の安定同位体比の比較から、生物の行動履歴を解析するアプローチはisoscape法と呼ばれる。研究の歴史が長い炭素・窒素の安定同位体比に加え、近年は重元素の同位体比を用いた研究も進展している。本研究では、愛媛大es-Bankに保管された沿岸性・外洋性鯨類試料を用いて、微量元素分布パターンと鉄安定同位体比から、これら指標の環境-生物間の対応関係を精査し、トレーサーとしての有効性を評価することを目的とした。

  • 田村 一紗, 板井 啓明, 砂村 倫成, 高橋 嘉夫
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 34-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    ナノプランクトンは水圏の一次生産者として大きな割合を占めるため、水-生物間の微量元素分配を理解するには、ナノプランクトンの微量元素組成の知見が必要となる。その元素組成は種によって異なり、環境中の種組成は時空間的に変動するため、種ごとの微量金属元素濃度が重要である。放射光X線マイクロビーム蛍光分析 (µ-XRF) では、非破壊でamolオーダーの微量金属の局所分析が原理的に可能である。本研究では、国内の放射光施設のビームラインを用いたµ-XRF分析を試行し、プランクトン1細胞ごとの微量金属元素濃度をXRFスペクトル解析によって絶対定量 (非検量線)することを試みた。また、複数湖沼で採取した珪藻を対象に水中-ナノプランクトン間の微量金属比の比較解析を実施し、珪藻の持つ化学量論比と環境因子の関係性理解を試みた。

  • 中村 修子, 茅根 創, 高橋 嘉夫, 砂村 倫成, 細井 豪, 山野 博哉
    専門分野: G2 環境地球化学・放射化学
    p. 35-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    地球温暖化・海面上昇の危機に直面するツバル環礁は、人口増加による生活排水と廃棄物汚染の問題も深刻である。サンゴ礁への人為影響のタイミングとプロセス解明のために2009年ツバルの首都フォンガファレ島でハマサンゴ骨格年輪を採取した。サンゴ年輪には黒色バンドの混入が見られる。同位体や放射光実験を含む重金属/有機分析、微生物DNA解析を組み合わせ、黒色部からは鉄を主体とした重金属類、付着藻類など過剰な有機物および嫌気性バクテリアの遺伝子断片を検出した。また黒色バンドに見られた赤褐色—灰青色—黒色の色グラデーションが鉄の酸化還元状態を反映し、硫化鉄がサンゴ骨格の炭酸塩結晶中に沈殿していた。これらの結果は、ツバルの人口増加する1991年以降, 未処理の排水からラグーンが富栄養化し, 藻類の季節繁茂やヘドロがサンゴ表面上で嫌気性バクテリアによる硫酸還元(無酸素状態: Anoxic)を発生させ、枝サンゴの斃死などサンゴ礁生態系の劣化につながったことを示す。

G3 海洋の地球化学
  • Idha Yulia Ikhsani, Ronald Mohammed, Jia Rui Xu, Kuo Hong Wong, Shigen ...
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 36-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    有明海において溶存態マンガン、鉄、銅、コバルトおよび栄養塩の分布を明らかにし、その供給源、輸送過程を検討した。河口の混合域においては単純な物理的過程が分布を支配している訳ではない。マンガン、鉄には強い除去過程が作用し、銅、コバルトについては沿岸堆積物からの供給過程が重要であることが示唆された。

  • 宮本 洋好, 岡村 慶, 野口 拓郎, 八田 万有美
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 37-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    栄養塩の測定は、生物・大気・深層など海洋の様々な情報を得るために非常に重要である。その中でも、硝酸塩は海洋において、 植物プランクトン・藻類の増殖に必要な栄養塩の1つとして知られている。硝酸塩の一般的な分析法では、試薬調製やラボ分析などの方法がある。観測現場でモニタリングを行うために分析装置に比較的測定が安易である方法が望ましい。そこで、硝酸イオン(NO3-)あるいは亜硝酸イオン(NO2-)の強い紫外線吸収を利用した直接的に紫外吸光光度法による測定を行う方法を検討した。本研究では、紫外吸光光度法を用いて、塩分4~40、温度0~40 ℃の人工海水と硝酸ナトリウムを添加した人工海水の吸光度を測定することで、人工海水と硝酸イオンのそれぞれの吸光度の塩分・温度影響と海水中の硝酸塩濃度の分析が有効であることを明らかにした。

  • 島崎 智広, 小畑 元, 田副 博文, 乙坂 重嘉, 武田 重信
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 38-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    東京湾・有明海において海水中の希土類元素組成を明らかにした。東京湾流入河川および東京湾において顕著な正のガドリニウム異常が観測された。一方、有明海における正のガドリニウム異常は表層水でやや高い傾向が見られたが、大部分は東シナ海と同じレベルであった。人為起源希土類元素の放出過程を特定していくとともに、溶存状態の変化などの化学過程を解明していくことが今後重要である。

  • 伊藤 駿, 孟 繁興, 大木 淳之
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 39-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    北海道噴火湾における底質の酸化還元環境と栄養塩等の化学成分との関係性を明らかにするため、2019年2月から12月に時系列観測(採水及び採泥)を行った。噴火湾の湾奥部St.30の堆積物表面の酸化還元電位は底層水中の溶存酸素濃度と一致する季節変化を示した。また硫化物の分析から、堆積物中で硫酸還元が生じていたことが示された。直上水及び間隙水中の溶存無機窒素とリン酸の比は小さく、堆積物中で脱窒やリンの溶出などが生じた可能性が考えられた。

  • 永江 あゆみ, 高野 祥太朗, 宗林 由樹
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 40-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    亜寒帯北太平洋における溶存態Ni, Cu, Znの安定同位体比と濃度の東西鉛直断面分布を明らかにした.本研究で観測された亜寒帯北太平洋表層におけるNiとZnの同位体比の変動は,南太平洋表層での先行研究の変動に比べて小さかった.一方,深層におけるNiとZnの同位体比には,亜寒帯北太平洋と南太平洋で有意な差はなかった.これらの元素の同位体比分布を支配するおもな要因は,Niでは表層における植物プランクトンによる軽いNi同位体の優先的な取り込みと深層における再無機化,Znでは表層における生物起源粒子への重いZn同位体の優先的吸着と深層における再無機化と考えられる。亜寒帯北太平洋におけるCu同位体比は,1000 m以浅においては南太平洋の値と同程度であるが,1000 m以深では南太平洋のCu同位体比に比べて高かった.亜寒帯北太平洋深層のCu同位体比は粒子吸着による同位体分別を長時間受けた結果高くなったと考えられる.

  • Rodrigo Mundo, Tetsuya Matsunaka, Hisanori Iwai, Mutsuo Inoue, Takami ...
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 41-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    Σ14DPAHsの平均値は、2017年には3.64 ng L -1 (1.67-5.15 ng L -1 )で2019年では3.97 ng L -1 (1.98 ng-6.48 ng L -1 )だった。2017年には、高緯度ほど高いDPAH濃度が観察された一方、2019年には傾向が逆転した。 塩分と水温によると2017年では亜寒帯循環内にあるリマン海流水(塩分32.5-33.0、水温<16℃)の東向表面混合が見られ、2019年は対馬暖流(塩分33.7-34.5、温度> 17℃)の比較的に純粋な輸送が示した。結果はDREAMSモデルと比較された。 結論として、日本海北東部におけるDPAHの分布は、両方、対馬海流とリマン海流、に密接に関連していることが分かった。

  • 吉川 知里, 眞壁 明子, 松井 洋平, 豊田 栄, 本多 牧生, 横川 太一, 布浦 拓郎, 大河内 直彦
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 42-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    東部インド洋の東経88度の側線におけるKH-18-6-leg2航海と東経111度の側線におけるMR15-05-leg1航海で得られた、海水中の硝酸の窒素・酸素同位体比測定結果を報告する。ベンガル湾北部の亜表層の貧酸素水塊では、窒素・酸素ともに高い同位体比を示し、水柱における硝酸還元が示唆された。またベンガル湾南部の亜表層の高塩分水塊では、窒素・酸素ともに低い同位体比を示し、窒素固定由来の有機物が無機化していることが示唆された。さらに、南緯10度の比較的低塩な中層水では、東経111度の中層水とほぼ同じ窒素・酸素同位体比を示し、インドネシア通過流起源の水塊である可能性が示唆された。

  • 深澤 徹, 小畑 元, 臼井 聡, 松岡 史郎, 則末 和宏
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 43-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    テルル(Te)は、深海底のマンガン団塊中に極めて高濃度で存在する。Teは有用なレアメタルであり、Teがマンガン団塊中に濃縮するまでに海洋内で経る過程、広い海洋のどの海域にTeが高濃縮するのかの理解が重要である。これまで固体の分析・解析的な研究により、海水中からマンガン団塊中へのTeの取り込みが高濃縮の要因であると報告された。一方で、高濃縮に深く関わる海水中Teの酸化還元化学種(Te(IV)、Te(VI))に関する知見は乏しい。海水中Te化学種の分析法の一つであるMg(OH)2共沈-水素化物発生原子吸光法は、用いる試薬がNH3(aq)のみであり、Blankを低く抑えることができる一方で、多数の海水試料分析には適さない。そこで本研究では、Mg(OH)2共沈によるTe化学種の濃縮、陰イオン交換樹脂カラムによるTeの相互分離における最適条件を見出し、外洋海水試料に適用可能な海水中Te化学種の濃縮分離法の開発を行った。

  • 山中 紘輝, 近藤 能子, 藤田 夏穂, 砂原 雄大, 小畑 元
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 44-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    海水中の溶存鉄の大部分は有機錯体鉄として存在すると考えられている。しかし、還元反応により生じる二価鉄(Fe(II))は、好気的環境ではその半減期は極めて短いものの有機錯体鉄よりも生物利用能が高く、海洋の鉄循環に重要な影響を与える。本研究では、東シナ海陸棚斜面域の鉄の化学的存在形態を把握するためFe(II)の分布と半減期を調査した。海水試料は2019年7月の長崎丸航海中、東シナ海陸棚斜面域の4測点でクリーン採水を実施して得た。現場のFe(II)は日中の表層で極大を示し、クロロフィル極大層以深でも検出された。PARとFe(II)の関係から、日中表層で見られたFe(II)濃度極大は光化学反応に起因すると考えられた。Fe(II)半減期は深度と共に長くなる傾向を示したことから、亜表層で検出されたFe(II)は有機物分解や還元環境下の堆積物より供給されたFe(II)が保存された影響と考えられた。

  • 角田 隼, 則末 和宏
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 45-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    海洋中の微量元素の分布の解明は物質循環の解明に有用である。本研究では東シナ海周辺海域における微量元素Biの分布を明らかにし、その動態に及ぼす海底地形及び海洋縁辺域の影響を調べることを目的とした。採水地点は要旨に記載。陸地に近いSt.1、および陸棚上で水深の浅いSt.3及びSt.4では、溶存態Biの濃度が低く、一方で水深が比較的深いSt.2では溶存態Bi濃度が高くなった。St.5からSt.15では表層の濃度が高く、深層の濃度が低い、除去型の鉛直分布を示した。また、伊豆・小笠原海溝(St.B)に比べ、琉球海溝(St.13, St.15)では深層水柱を通して約10倍濃度が低いことが分かった。これは、縁辺域に位置する琉球海溝での除去によるものと推定される。溶存態Biの滞留時間は、東シナ海及び周辺海域では、約0.3から4年、伊豆・小笠原海溝では約17から26年であることがわかった。東シナ海及び周辺海域で明らかに短い滞留時間は、海洋縁辺域や海底地形の影響によるものであると考えられる。

  • 西村 日向子, 堀川 恵司, 申 基澈
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 46-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    近年、様々な研究グループにより海洋の鉛同位体比の分析が精力的に進められている。現時点では、全海洋を網羅するほどの空間分解能で鉛同位体比の分布が明らかになっているわけではないが、これまでの研究によれば、海水の鉛同位体比は、起源の異なる大気由来鉛の影響を反映し、海盆スケールで地域的な差異が報告されている(e.g., Pinedo-gonzalez et al., 2018)。今後、鉛同位体比の地域的な差異がより高い空間分解能で明らかになってくれば、魚類の産地判別などにも利用できる可能性があり、本研究では、その先駆けとして鉛同位体比による魚類の産地判別法の可能性について検討を行なった。

  • 小磯 昂士, 織原 佳祐, 松井 博幸, 奥田 祐樹, 橋本 伸哉
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 47-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    クロロメタンは成層圏オゾンの分解に関与することが知られており、海洋はその主要な生成源の1つとされている。本研究では、海洋の微生物によるクロロメタンの生成に関する知見を増やすことを目的とした。神奈川県鎌倉市の七里ヶ浜沿岸域で海水試料の採取を行い、そこから69の海洋微生物を単離した。MB2216培地を100倍希釈したDMB培地でこれらの海洋微生物の培養を行った後にダイナミックヘッドスペース-GC/MSを用いてクロロメタンを含む微量ガスの測定を実施した。実験を行った69サンプルのうちクロロメタンの生成は8サンプルで確認された。また、最大生成量に関しては51 nmol/ Lを生成するサンプルが確認された。この結果よりクロロメタンの放出源として海洋微生物が役割を果たしている可能性が示唆された。

  • Rodrigo Mundo, Tetsuya Matsunaka, Hisanori Iwai, Shiya Ochiai, Seiya N ...
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 48-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    平均Σ14PAH(粒子態+溶存態)濃度は、夏が最も高く、冬が最も低かった。 具体的に、4つのサンプリング調査では、それぞれ8.50 ng L-1、14.44 ng L-1、10.31 ng L-1、7.01 ng L-1です。 粒子態/溶存態の割合は季節ごとに大きい違いがあり、サンプリング日の数日前の降水量と密接に関連していた。 西部地域で最も高い粒子態PAH、東部地域に向かって減少することが一般的な傾向でした。 河川流出は、粒子態PAHの主要な輸送経路でした。 ∑14 PAHのリスククォーフィアンティは、60の海水表面サンプルで0から82.49まで変化し、海洋生物へのリスクが低いことだを表した。

  • 奥田 祐樹, 今村 歩未, 吉田 壮秀, 長内 沙樹, 橋本 伸哉
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 49-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    揮発性有機化合物の中でもモノハロメタンは大気中で光分解されてハロゲンを放出し対流圏・成層圏オゾンの分解や大気中のハロゲン循環に関与している。モノハロメタンの生物由来に着目すると海洋植物プランクトンやバクテリアが生成に関与していることが明らかになっている。しかし研究室で培養可能な種が少ないこと等から研究例は少なく、実際の海洋植物プランクトンのモノハロメタン生成への寄与の見積もりは十分には明らかになっていない。本研究では数種の植物プランクトンを対象にモノハロメタン生成について調べた。本実験の結果から、今回培養した全ての植物プランクトンがモノハロメタン生成能を持つことが明らかになった。今後、生成が見られた植物プランクトンと同じ属名の種の培養実験を行い、モノハロメタン生成が種特有のものか調べていく。

  • 川口 慎介, 松井 洋平, G. L. Früh-Green
    専門分野: G3 海洋の地球化学
    p. 50-
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    会議録・要旨集 フリー

    14Cの定量にはETH Zürichに設置されたガスソース加速器質量分析システムMICADASを用いた。二酸化炭素については、第四与那国熱水域においては有意な量の14Cが検出された。メタンについては、すべての試料でコンタミに対して有意な14Cを含まないことが確認された。Kawagucci S, Y Matsui, G Früh-Green. Radiocarbon content of carbon dioxide and methane in hydrothermal fluids of Okinawa Trough vents, Geochemical Journal, 54, 129-138, 2020.Doi: 10.2343/geochemj.2.0595.

feedback
Top