本研究では,現在氷床後退が著しく進行しているアムンゼン湾沖合で採取された海底堆積物(Site U1532)を対象に砕屑物(<63 µm)のSr-Nd-Pb同位体比を分析した。対象としたU1532コアは,棚氷・氷床の融解に伴って堆積した氷山岩屑(Ice Rafted Debris)を含む間氷期の堆積物と粘土層を主体する氷期堆積物の繰り返しから構成されており,その中でも3.3-4.8Ma期間の7つの氷期−間氷期についてSr-Nd-Pb 同位体比を測定した。砕屑物の同位体比から,氷期にはアムンゼン湾縁辺までPine・Thwaites氷床が拡大し,間氷期にはアムンゼン域・ベリングスハウゼン域の氷床後退が示唆された。また,氷床が再拡大する時期に相当するIRD層直上では,アムンゼン湾縁辺から1000 km内陸に位置するEllsworth-Whitmore山脈に由来する砕屑物の寄与が見られた。この事から,鮮新世の間氷期に西南極氷床の全融解が示唆され,鮮新世の氷期−間氷期で氷床の前進・後退が~1000 kmの規模で繰り返し生じていたことが示された。