スルメイカの平衡石は,個体が経験した水温を酸素安定同位体比(δ18O)として時系列で記録する.この特性を活用すると,平衡石δ18O履歴をもとに温度勾配が大きい南北の回遊履歴を復元することはできるものの,等水温帯は東西に広く分布するために東西の回遊海域識別は難しい.一方,海水中の微量元素組成は海域毎に濃度が異なる場合があるため,東西方向の回遊海域識別指標を構築できる可能性がある.本研究では,日本海及び太平洋で生育したと考えられる小型スルメイカの平衡石のδ18O履歴と微量元素組成の複合解析による回遊海域識別指標構築の検討を行った.δ18O履歴からは日本海・太平洋で明確な違いは見いだせなかったものの,Ba濃度は日本海側個体の方が太平洋側個体よりも高い傾向が示され,先行研究での海水Ba濃度とも整合性があった。以上の結果から,δ18O履歴と微量元素濃度との複合分析によって,スルメイカの回遊海域識別指標の高精度化が期待される.