魚類の耳石・脊椎骨・眼球などは,形成時に食餌や周辺海域の同位体組成や微量元素組成を保持するため,これら蓄積性物質の化学分析により,魚類の生態履歴を復元することが可能である。本研究では,Harada et al. (2022)によって測定されたマサバ(Scomber japonicus)の水晶体のアミノ酸δ15Nに基づくδ15NBaseに加え,炭素安定同位体比及び放射性炭素同位体比を用いた高確度の回遊復元を目標とする。2020年8月に岩手県大槌湾で採集されたマサバの成魚の水晶体を33-34層に剥離した試料から,δ15NBulkとδ13CBulk及びアミノ酸のδ15NAAs,Δ14Cを測定した。δ15NBulkが約10‰で安定する成長後期に,δ13C及び Δ14Cの変化がみられた。この個体は成長後期に,表層水中の溶存二酸化炭素のΔ14C値が大きく変化する40°N付近を跨いで北上し,再度南下して40°N付近に戻った可能性を示唆する。この結果は,複数の同位体情報及び状態空間モデルを用いて,移動推定の確度を向上させることができる可能性を示唆している。