抄録
四国東部秩父累帯中の三畳系中部 (Lower Anisian) 層状チャートよりLingularia sp. (腕足類) の化石が産出した. 産出層準は、砥石型珪質粘土岩から頁岩とチャートの等厚互層への漸移部であり、堆積環境が還元状態から回復する過程の貧酸素状態を示す部分である. 本標本と類似するLingularia sp.は、ロシア極東シホテアリン山地の下部~中部三畳系 (Spathian-Lower Anisian) 層状チャート層の頁岩部やニュージーランド付加体中の層状チャートに伴う中期三畳紀の半遠洋性堆積岩からも見つかっている. この発見は、ペルム紀/三畳紀境界イベントに伴うOAE (海洋貧酸素事変) からの回復過程でいわゆる “Lingula ” (本研究でのLingularia も含む) が大繁栄したという見解を支持し、かつその影響が、古太平洋の深海域まで及んだ可能性を示唆している.