抄録
中部地方領家帯の伊奈川花崗岩体に北東-南西方向に延びる足助剪断帯には,シュードタキライトを含む延性-脆性断層岩類が分布する.足助剪断帯は全体の延びの方向に対してわずかに低角度に斜交する杉型の雁行配列をなす小規模の剪断帯から構成され,線構造と剪断センスの指標から,左ずれ正断層運動を記録している.このことは,足助剪断帯が全体として横ずれ伸張場でその幅を広げながら成長したことを示唆している.マイロナイト化しているシュードタキライトや破砕したマイロナイトの存在などから,本剪断帯の断層岩類は破砕-塑性遷移領域で形成したと考えられる.また,露頭の詳細なスケッチとマッピングから,シュードタキライトは小剪断帯内部に発達するP剪断面に優先的に形成する傾向が認められた.このことは小剪断帯の横ずれ圧縮部において選択的に摩擦熱発生が促進されたことを物語っている.