抄録
2008年6月14日,岩手・宮城内陸地震(MJ7.2)が起こった.これは岩手県と宮城県の境界地域での北北東-南南西方向の逆断層運動によるもので,甚大な被害をもたらした.地震の後,震源地域やその周辺にある温泉について,地震前後の変化を聞き取り調査した.地震直後の湯量や色の変化は,震源断層下盤より上盤地域での方が顕著であった.注目すべき事は,震源の真上やその近傍にある祭畤温泉,真湯温泉,および湯浜温泉においては,地震に先立って~5℃の湯温上昇があったこと,同様に余震域南端に位置する川渡温泉と鳴子温泉の一部では,湯量が顕著に増加したことである.地震に先立つこれらの変化は明瞭であったにもかかわらず,震源直上近傍に設置されていた傾斜計とGPSでさえ,地震の前兆を検出できなかった.この事実は,本震に先立つ地殻の変形と地震直前予知の戦略に対し,重要な示唆を与えよう.